加藤のメモ的日記
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…ただ、ひたすらイラクの内戦を静観していたアメリカにも一つの誤算があった。イラク北部でグルド人が予想外の抵抗を示し、これに対してサダム・フセインが非道の限りを尽くして鎮圧した。その結果、大量のグルド人難民が周辺諸国に流れ込み、グルド人難民が中東の新たな起爆剤になる危険性が出てきてしまったことだ。
グルド人はイラク、トルコ、イラン、シリア、ソ連の5カ国にまたがるクルディスタン山岳地帯にすむ半遊牧民族だが、これまで自らの独立国家を持ったことがない。人口1.200万とも2.000万ともいわれる世界最大の難民である。そのため昔から独立国家建国はグルド人の悲願だったが、彼らの独立運動はことごとく潰され、そのたびに多くの血を流してきた。クルド人がイラク北部で予想外の抵抗を示したのも、国家建設の悲願があればこそだった。
共和国防衛軍によって鎮圧されてしまったが。彼らは一時、イラク最大の油田地帯キルクークを制圧した。仮にクルド人がキルクークを取ってそこにクルド人の自治を確立していいたら、彼らの独立国家創設運動の大きなステップになるところだった。しかし、国内にクルド人を抱える周辺諸国にとって、イラク北部にクルド人の自治共和国ができたのではまずい。これがバネになって自国内のクルド人の独立運動に火がつけば国内秩序が不安定になってしまう。
アメリカにしても、とりわけNATOの戦略的要衝であるトルコの政情が不安定になるのは安全保障上きわめて重大事だ。どこも本音ではクルド人の独立運動を刺激したくはない。だからこそ、イラク北部でクルド人たちが共和国防衛軍によって虐殺されていくのを横目に、形ばかりの物資援助に終始した。これも「これだけ援助するから、その代わりこれ以上騒ぎを広げないでくれ」というのがホンネだろう。
『そして我が祖国』
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