加藤のメモ的日記
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2010年05月04日(火) 懲りない奴ら

「盗んだ車を銀行の入り口近くに停めましてね。入る時間は決めてあって、午後一番がお客も少ないから、午後一時に入ろうって…そうやって、一つきっかけを自分に強いて決めてかからなくちゃ、やれないですよ。ところがやっぱり尻込みしちゃうんです。車からなかなか出ていけない。行こうと思うと、婆さんが店に入っていくのが見える。ああ、あの婆さんを驚かすのは可哀想だから、あれが出て行ってからにするか…とか。

また行こうとしたら、今度は小さな子供を連れたお母さんが入って行っちゃった…。やっぱり内心、本音ではすごく怖いんだよね。だから自分で自分にあれやこれや、いろいろと言い訳をしちゃう。…それで、マスクに厚着ですから汗びっしょりで、とうとう〈もうやめた!〉って車を出しちゃった。やめたやめた、今なら無理すればどこからか借りることもできるんじゃないか…って。

そうして戻る途中、喉が乾いてきたんで車を止めて、自動販売機でジュースを買ったんです。それがたまたまくじ付きの販売機でね、これが大当たり。気がつくと、もう一本ジュースが出てきてる。その時思ったんですよね。こんなこと滅多にないんじゃないか…って。

その瞬間、私、別人になっちゃいましてね。その大当たりに背中を押されたっていうか、それで吹っ切れたというか、そのまますぐ車に戻って、来た道を引き返して。もう、何の迷いもなく銀行に乗り込んで行きました。『伏せろ!』って叫んで、拳銃天井に向けてバーンってね。あれ、映画なんかだと心境を描写するのに、周りの音がなくなって心臓の鼓動だけがとくとくとか、時計がチクチク鳴っていたりするけど、現実にはちょっとそういうものとも違うんだなあ。

ただ、スローモーションフィルムのように、周りが止まってるみたいには見えた。それで自分の声だけが、自分の中でものすごく反響するんですね。ただ、拳銃の音ってけっこう小さくって、豆まいたような音しかしないんですよ。だから最初、銀行員もポカンとしてる。しょうがないから今度はカウンターを撃ってやった。パーンって弾けるわけ、それで『伏せろ、この野郎!』って言ったら、今度はみんなバーッて伏せましたね。ベル押す奴なんか誰もいない。

客は床にべったりだし、行員もカウンターやテーブルに突っ伏してる。それじゃ強盗にならないんで(笑)、行員に拳銃突きつけてビニール袋突き出して『これに早く金入れろ!』って言ったら、いやぁ、早い早い。ビデオが高速回転してるみたいに金を突っ込むわけ。札だけじゃなく小銭まで突っ込もうとするから、『バカ野郎、それじゃ重くて俺が持って帰れねえじゃないか!』(笑)って叫んだら、その行員、『すいません、すいません』って平謝りしてましたね。

「警察が乗り込んできたのは、3回目から1年ぐらいして突然だったね、今だから冗談のように言えるけど、ああして警察が来なかったら、またやってたかもしれません。やっぱり人殺した奴の心境と似ていて、一人やっちゃえば、後は何人やっても同じ見たいな。でも最近の4〜5人で現金輸送車襲ったり、人を殺したりというのは、まあ、銀行を襲った人間が言うのもなんだけど、ホント、やり方がひどいですね。

ただ金目的だけだし。それに何といっても工夫が足りない(笑)それで人殺したうえに銀行から新聞を切った偽札掴まされて無期や死刑になっちゃったドジもいる。ああいうのは、経験者だから言うわけじゃないけど(笑)あんまり金に汲々として、金欲しい、金欲しいでやると失敗するんですよ。

まだ余裕があるうちによく考えて行動しないとね。刑務所にもいましたよ、一文無しで包丁持って郵便局に押し入って、30万取って懲役10年ってのが。それと、単独犯じゃなくちゃ。人を当てにしてたら、実際、あんなにうまくいきませんよ」

「ムショ内の仕事って何から何まで囚人がやらされるんです。メシ配るのからシモの世話まで。なにしろ、死体の処理まで囚人がやらされるんですから。中では自殺が多くってね。無期懲役で、つまんないことで摘発されて仮釈放取り消しになった…なんて人が自殺しました。一番多いのは首つり。その死体を下ろすのから、後始末までやるのは囚人ですよ。看守は何もやらない。ただ偉そうに指示して見ているんです。…中で一番のエリートのやる仕事は図書。黒い霧事件の吹原広宣なんかやってましたね」

「チンコロって密告専門の奴がいるんです。担当もそういうの飼ってたりしましてね。それと話をデカく吹くう奴も多くて。みんな自称やくざの大物になっちゃう。俺は何々組のナっバーツーだとか、俺は右翼の大物で笹川良一の側近だったとか。でもそいうのって、だんだん聞いているうちに見抜けますからね。

実は側近じゃなくて、単に笹川の運転をちょっとやってたことがあるだけとか、…郵便局や銀行襲っても20万じゃカッコ悪いから200万に上乗せしたり、私はそんなことをしてませんよ(笑)やっぱりああいう最低の世界へ行っても、その中でも少しでも上のほうに行きたいと思うんですよね。だからついつい、ホラ吹いちゃう。そういうのが多い中で、ちゃんとした奴見つけて、選んで仲良くなるのって難しいですよ」



『実録 刑務所暮らし』


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