加藤のメモ的日記
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| 2009年05月23日(土) |
ユダヤ人のアイデンティティー |
ニューヨーク市(マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、ステイトン、アイルランドの五地区)のユダヤ人の人口は113万3000人で全人口の16%を占めている。これは同市における非ラテン系白人の三分の一にも相当する数だ。全米の人口に占めるユダヤ人の比率が2.5%に過ぎないことを考えると、ニューヨーク市にユダヤ人が集中していることがよくわかる。特にマンハッタンとブルックリンにその傾向は著しい。ユダヤ人としてのアイデンティティーの強弱を知る手立ての一つが宗教儀式への参加である。ユダヤ教の儀式の中でもっと多くのユダヤ人が参加するのは「過ぎし火の祭り」だ。統計によれば、ニューヨーク市とその周辺地区のユダヤ人の89%が参加している。
―なぜ民主党支持か―
ではなぜユダヤ人が民主党を支持するのか。この理由を知るには、その歴史的な背景を見る必要がある。在米ユダヤ人の大半は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて東欧から移住してきたユダヤ人とその子孫たちである。1920年までに全世界のユダヤ人の3分の1以上がアメリカに集中し、その数はさらに増えることが予想されていた。だが、1921年、当時の共和党政権は移民の数を制限し始めた。その目的の一つはユダヤ人の移住を縮小することにあったといわれている。さらに1930年代、共和党の孤立主義が強まるにつれ、ユダヤ人の間に「共和党は反ユダヤ主義」という感情がいっそう強まることになった。
その一方、国内の少数派市民「マイノリティー」の問題に共和党よりも積極的に取り組むリベラルな民主党を、少数派市民の一つであるユダヤ人が強く支持するようになったのは当然な成り行きであった。1944年の大統領選挙では民主党候補ルーズベルト氏を、ユダヤ人の90%が支持したといわれる。また移民の第二世代から。医者、弁護士、学者、ジャーナリストなど専門職にユダヤ人が数多く進出していったことも、リベラルな民主党支持の傾向と深いかかわりがある。さらに不動産業などユダヤ人の進出が特に著しいビジネスにとって、民主党支持が有利であるという経済上の理由もあった。
ユダヤ人の民主党支持の傾向は、民主党への莫大な政治献金、さらにその献金による党内への強大な影響力へとつながっていく。先のユダヤ人問題専門家・レニー・ブリナー氏は、民主党内でのユダヤ人の影響力の根拠を、具体的な数字をあげて次のように説明する。アメリカの経済史『フォーブス』は毎年全米上位400人の大富豪の名前を発表する。その中では人口比率2.5%にすぎないユダヤ人が24%を占めている。残りの76%はキリスト教徒のアメリカ人である。その90%は共和党支持者だといわれる。
つまり400人の富豪の中で民主党を支持するキリスト教徒は7.6%に過ぎないことになる。社会的な地位が向上したことによって。保守化する傾向はあるといわれながらも、民主党支持の伝統はまだ根強く、24%を占めるユダヤ人富豪の中でも50%が民主党支持と推定される。つまり400人の富豪の中で、民主党を支持するユダヤ人富豪は12%を占めることになり、また民主党支持の富豪の6割がユダヤ人ということになる。
これは民主党を支える政治献金の中でユダヤ人の献金の占める割合をほぼ示していると、ブリナー氏は推定している。民主党がユダヤ人の声を無視できない理由がここにあるわけだ。この民主党に比べ共和党に対するユダヤ人の政治献金の占める割合は小さく、それだけユダヤ人の影響は小さい。共和党政権が民主党政権よりもイスラエルに対して比較的強い姿勢が取れるのはそのためといわれる。1956年、エジプト領土に侵攻したイスラエルを「経済援助の停止」という圧力をかけることによって撤退させたのは、共和党のアイゼンハワー大統領であった。イスラエルロビーの猛烈な反対を押し切って、サウジアラビアに最新兵器AWACSを売却したのも共和党政権(レーガン)だった。そのいずれもその後再選を果たしている。
『アメリカのユダヤ人』土井敏邦
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