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2005年03月28日(月)
「高原好日」 加藤周一

「高原好日」信濃毎日新聞社 加藤周一
加藤周一氏は少年の頃、すなわち日中戦争前から現在に至るまで、ずーと夏は信州浅間山麓の追分村で夏を過ごしている。そこであった友人との語らいの日々、それをいくらか記録することは、戦前戦後の良心的な知識人の側面史にもなるだろうし、未完に終わっている氏の『羊の歌』の続編にもなるだろうと思う。

場所を信州に限定しているため、氏にとって重要なサルトル、渡辺一夫は登場してこない。しかし、意外にも氏と丸山真男は若い頃から親交があり、ともに信州奥の秘湯まで旅をしていることも初めてこの本で知った。ここに出てくる人物は歴史上の人物も含めて60数人。信州では家族的な付き合いをしていることが多かったから、堀辰雄についての一章があるのは当然としても堀多恵子夫人についても一章が設けられており、「私はそこに静かに充実した密度の濃い人生を想像する」のである。この本はほかにも中村真一郎夫人佐岐えりぬ、朝吹登水子、立石芳枝、野上弥生子、辻邦生夫人辻佐保子、等々女性の登場が多い。フェミニストたる氏の面目躍如であろう。

しかし、一人だけ信州での生活での最も重要な人物についての記述がほとんど無い。(名前だけは出てくる)矢島翠である。彼女との出会いについて語られる日は、いったいやって来るのだろうか。