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2004年12月27日(月)
「レディ・ジョーカー(下)」高村薫

「レディ・ジョーカー(下)」毎日新聞社 高村薫
高村薫は仕事の描写を大切にする作家である。新聞記者たちのいったん事件が起きたときの独特の空気の描写やネタ元との付きあい方、大手企業社長の分刻みのスケジュールを適確にこなし判断していく様子、刑事たちの独特な仕事の内容についてはすでに前々作、前作で充分描かれたが、今回はとくに「行確」が執拗に描かれる。しかし、この作品の中でもっとも重要な役割を持った人間達の、その仕事内容がほとんど書かれていない。総会屋と政治家の仕事である。その事は何を意味するのだろうか。読者それぞれが考える事なのだろう。

長編の利点であるし、高村薫の小説の利点でもあるのだが、いろんな読み方が可能だろうと思う。社会的事件発生のメカニズムとその発生源への考察、大企業の危機管理のあり方、男たちの誇りのあり様とその失意のあり様、幾つかの隠れた愛の形、そして私は本流から外れているかもしれないが、「頭のいい人間の思考回路はどうなっているのか」二人の人間をモデルに随分と興味深く読んだ。社長の城山恭介とその警護実はスパイを担わされている合田雄一郎警部補。そのこなしている仕事量と考えている事のギャップ。圧巻は合田がレディ・ジョーカーの巧妙な合図の白い布に気が付いた下りだ。「長年ちどりで鍛えてきた目は、何かに焦点を合わせる目ではなく、耐えず視界全部をひとまとめにして捉えているせいで、目に映っている風景の範囲内に変化があるとすぐ分かる」とはいってもたまたまの昨日の風景のほんの小さな違いに普通気が付くだろうか。この記憶力、人間技ではない、と思うのは私だけだろうか。

ラストの数ページは最近の長編の中でも白眉であった。このラストだけは文庫版「全面改稿」でも変えて欲しく無い。