日々あんだら
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2004年12月21日(火) 4年ぶり2度目(渦巻く怒り編)

4年ぶり2度目の経験だった。



昨日は我が支社の忘年会。
朝の部内会議で「今日は忘年会なんでよろしく」って言われるまで忘れてたけど、忘年会。


午後6時、早々に仕事を切り上げて会場に到着する。
入り口にテーブルが置かれ、幹事の方々がくじ引きのでっかい箱を2つ設置している。

「おつかれさまでーす」と挨拶しながら歩み寄る、入社5年目にして支社80人の中で一番下っ端な不肖hide。
「おう、お疲れさん。座席のくじ引いて」と言われて、何気なく左側の箱に手を突っ込む。
中のくじをガサガサガサっとかき回して…って、なんかえらくくじが少ないなぁ。
まあいいやっ!と勢い良くくじを引き抜くっ!!

そこには赤い字で書かれた座席の名前。



…赤い字??



「おめでとう!!」
「それ、当たりくじやで!」
「じゃあ、後からゲームに参加してもらうから、7時になったらロビーに出て来てな!」

…へ?(汗)


ものすごく嫌な予感に背中を押されつつ、僕は会場に入った。



午後6時30分、忘年会はお決まり通り支社長の挨拶と乾杯の音頭で始まった。
日本下戸協会名誉会長の僕だが、とりあえず乾杯くらいはビールに口をつける。
「ビール無しでは1日たりとも生きていけない」という人の存在が己の理解の範疇を超えていることを実感する瞬間である。

料理はバイキング方式。
年の近いもう1人の先輩と2人でテーブルの人全員分の料理を掻き集めに走る下っ端hide。

おじさんたちが
「おいおい、こんなに食われへんがな」
と言うくらいの料理がテーブルに並んだ後。
席に着いて猛然と食べ始める。
「大丈夫っす、僕が食べますから」

時間は30分しかないのだ。


お腹もいっぱいになってきた午後7時。
というか、明らかに食べ過ぎて気持ち悪くなってきた午後7時。
赤いくじを引いた人たちに幹事から召集がかかる。
正に赤紙。召集令状である。
ゲップをかみ殺しつつ、悲壮な決意を持ってロビーに向かった。



ロビーには僕と同じ当たりくじを引いた、各テーブルの代表7名と幹事が集まっていた。
各自、表情に不安感と悲壮感がにじみ出ている。
なんせ、なにをやらされるか聞かされていないのだ。
しかし、どうせロクでもないことをやらされるということだけはわかっているのだ。

中には自分が今日履いているパンツをチェックしている人までいた。
もちろん、脱がされる場合のためのチェックである。
僕もチェックする。幸運なことに先日おろしたばかりのパンツを履いて来ていた。

「なにしたらええねん?」
みな口々に幹事に尋ねるが、
「ついて来てもらえればわかります」
彼はニヤニヤしながらそう答えるのみ。

「じゃあ3Fに」
そう言って9人でエレベーターに乗り込む。
3F…
エレベーターの案内板には「新郎控え室/新婦控え室/男子更衣室/女子更衣室」とある。


…やっぱり。
「予感」が「確信」に変わる。


更衣室に着くと、そこには紙袋が8つと机の上に所狭しと並べられた、100均コスメの数々。
「えー、みなさんには女装していただきます」
誇らしげな幹事の声に、誰も驚きはしなかった。
ただ、不満の声が上がるのみ。

こうして、僕は28年4ヶ月の生涯で、4年ぶり2度目の女装をする羽目になったのだった。
(つまり、1回目は新入社員の年の忘年会である。笑)



我々は集団生活を余儀なくされる、上司の命令には面従腹背なサラリーマン集団である。
しかもここにいるのは芸達者な営業マンの面々ばかり。
不満を抱きつつも準備に取り掛かる。
「準備は10分でお願いしまーす!」

できるかいっ!!


その時、ふと僕が気づいた。
「あれ?今年、転入してきた人がみんな揃ってるんですねー。偶然…?」

ざわっ。

更衣室の空気が変わる。

「ちょっと待って」
「そう言えばお前、どっちの箱から引いた?」
「え?左ですけど」
「おれも左…」
「あ、僕も…」
「おれは右の箱から引こうとしたら、左の箱を差し出されたぞ」
「そう言えば、箱の中にくじの紙がほとんど入ってませんでしたよね?」


振り返るとそこに…


…幹事の姿はなかった。。。



要は仕組まれていたのである。
ここに集められた8人はくじ引きの神様の気まぐれではなく、
幹事団の悪意によって選ばれた人間たちだったのだ。

…まあ、冷静に考えたら支社長や部長にこんな格好させるわけにはいかんもんなぁ。


かなりの不満(というか怒り)を抱きつつも、我々は集団生活を余儀なくされる、
上司の命令には面従腹背なサラリーマン集団である。
しかもここにいるのは芸達者な営業マンの面々ばかり。(2回目)
準備に取り掛かる。


衣装は全部女子高生らしい。
「でかいサイズ」と書かれた紙袋と「普通」と書かれた紙袋が4つずつある。
迷わずでかい方を取る。

「これ、着れるんかなぁ…」
思わずもらした独り言に
「フリーサイズやから大丈夫」
いつの間にか戻って来ていた幹事が答えた。


しかし、この「フリーサイズ」というやつがクセ者なのだ。
4年前に女装した時には(いつか日記のネタにするため詳細は伏す)、
新宿のハンズで「フリーサイズ」と書かれてあった衣装を買って来たのだが…

背中のファスナーが1cmたりとも上がらなかった…(号泣)

結局背中前回で芸をすることになってしまい、トランクスまで丸見えだったという屈辱(?)の過去があるのだ。
嫌な予感が増幅される。


とりあえずスーツを脱ぎ、青いチェックのスカートを手に取る。もちろんミニスカートである。
意を決して履いてみる。なんとか履けそうだ。
頑張れ、おれ!おれはやればできる子だっ!!

意味不明の激励を飛ばしながらスカートを履く。履けた!やればできる子だったー!!
しかし、元々プリーツスカートであったはずのそれは、僕が履くとどう見てもタイトスカートなのだった。。。


続いて靴下を脱ぎ、ルーズソックスを履く。ルーズソックスは初体験である。

お?
おおっ?

これ、結構いいかも。履き心地いいぞ。
あったかいし…

「これ、外で履くのは恥ずかしいけど、家で履くにはええかもなぁ」
先輩が呟く。

あなた、確か妻帯者でしたよね?(笑)


続いてベストを着る。
が、両腕を通した時点で、首を通す前にこれは厳しいことがわかる。
勢いをつけて着ようとするが…あかん。きついって。
フリーサイズって書いたん誰やっ!過大広告やんけ!JAROに訴えてやるっ!!

そう悪態をつきながら顔を突っ込んだ状態でもがいている僕を、先輩たちが手伝ってベストを着させてくれた。
妙な連帯感。(笑)



着替えた後は(自分でやるのは)初めてのお化粧である。
各自の紙袋の中に「お化粧マニュアル」なるプリントが入っていた。


まずは「ベースを塗ります」だそうだ。
チューブから手にうにょうにょうにょ、っと出す。
それを両手で少し伸ばして顔に塗る。

…あれ?
なんか白くないか、おれ。いや、むしろ白すぎないか。

「お前塗りすぎやねん!」
「芸者か!!」
容赦ないツッコミを飛ばしてくる先輩たちの顔もまた雪のように真っ白なのだった。



「次に目元をくっきりさせます」
マニュアルにしたがって、アイブロウを手にとる。
眉毛を描くのか?てか、おれってそんなの描かなくても立派過ぎるくらい立派な眉毛なんですけど…
と思いつつも、せっかくの機会なので描く。
もちろん印象はほとんど変わらない。

次にアイシャドゥを入れる。
ここは青か紫でしょう。
紫は先輩が使ってたので青をゲットする。

で、これ。目蓋に塗ればいいのはわかるけど、目蓋のどの部分???
そんなのをまじまじと見たことはないのでよくわからない。(母親や妹はそんなの入れないし)
とにかく適当に塗る。

次にビューラー。これは前から一度やってみたかった。
こわごわ睫毛に近づけて挟む。そして引っ張る。反対側の睫毛もやる。
おおっ、なんかちょっとぱっちりした気がする。(錯覚)
調子に乗ってもう1回ずつやってみる。

最後にマスカラである。
これ、どうすんの?睫毛に塗ればいいの?
よくわからんまま下から睫毛を持ち上げるように何回かこする。

おおっ、なんか睫毛が伸びた気がする。(錯覚)


この頃には、周りも含め、かなり本気モードになっていた。
鏡に映る自分や先輩の顔がマジ顔で、ちょっと笑える。
20歳の頃、友達が化粧しているのを1時間に渡って隣りで見ていたことがあったのだが、
その時の彼女と同じ表情である。(笑)


そして口紅。
とりあえず一番手元にあった口紅を取って塗ってみる。

…濃っ!!

なんと言えばいいだろうか?
漫画に出てくるようなどぎつい赤、というか、みんながイメージする汚いオカマが塗る、まさにその色であった。

が、一度塗ってしまったからにはそのまま行かないと仕方ない。
慎重に塗る。
塗っては「んぱっ」、塗っては「んぱっ」を繰り返し、少しずつ塗る。
最後に輪郭をはみ出さないようにより一層慎重に…完璧。

この世に「完璧」というものが存在するならば、この日の僕の口紅の塗り方は正にそのうちの1つであった。
惜しむらくは…色のチョイスを失敗したな。(爆)


最後にヅラをかぶる。
なんでこういうヅラはおばはんくさい髪型なのか。色は金に近い茶髪なのに…



そうして完成した僕の女装は…
漫画「モ○キーターン」に出て来る、ある女性キャラそっくりなのだった。

「なんて言ったらいいか…正統派ブスやな」

先輩の放った言葉が、僕の魂の奥の、一番柔らかい場所に突き刺さった。



周りを見渡すと、みな僕に勝るとも劣らぬ化け物揃いである。
あ、この中ならおれはマシな方かも。

「場末のオカマクラブの控え室みたいやな」
「場末に失礼やろ」

椅子に大股開きで座って煙草をふかす先輩の言葉に、
ヅラを直しながら他の先輩が間髪入れずツッコミを入れる。


と、1人だけまだ鏡に向かっている先輩がいた。
後ろから覗き込む。


!!!


か…




かわいい…


目元ぱっちりなのである。
お肌真っ白なのである。
でもナチュラルメイクなのである。

それで茶髪のヅラをかぶる。


いるっ!


こんな女子高生、渋谷とかにいるっ!!



「今、『押し倒せ』って言われたら、僕できます」
僕の心からの言葉は、
「頼むからやめてくれ」
心から拒絶されたのだった。


(以下次号)


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