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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2003年03月23日(日)
少年に幸あれ


 ふらりと立ち寄ったグランドで、彼と再会した。再会、と言っても決して本人と面識があるわけじゃないんだけど。でも、そう言いたくなるほど、彼の印象は強烈だったのだ。

 昨秋、学校のオープンキャンパスで、10数人の中学生がグランドを訪れた。彼はその中の一人。他の子は10分そこらでバスに乗って帰っていったのだが、彼は1人グランドに残り、ネット裏で最後までじっと練習を見ていた。それほど体の大きな子じゃないけど、一瞬高校生かと思った。左胸の名札を見なかったら、中学生だとはわからなかったはず。しっかりしてそうな子だった。この子は野球がうまいに違いない。根拠はない。でも、私の中では確信だった。

 彼の目は、“高校に選んでもらいたい”ではなく、“自分が高校を選ぶ”ためにあった。練習の光景を審査員のようにじっと吟味していた。果たしてここの練習は彼の判断基準を満たすのか。私は、彼の表情が気になって仕方なかった。ちょっとした仕草やプレーで彼から見切られてしまうんじゃないかと思うと、怖かった。ここに来てくれたらいいんだけど。でも、この子ならもっと厳しい名門校からも誘いがあるかもしれない。もう会うこともないだろう。

 あれから半年。あのときと同じ制服姿の彼が、あのときと変わらぬ目で試合を見ていた。今日ここにいるということは、入学が決まったと思っていい。指を鳴らしたい気分だった。よくぞ、選んでくれたっ!って。

 試合を見る目は、秋より鋭かった。これからはライバルにもなりうる先輩たちのプレーをしっかり見据えていた。側には私服中学生が数人いた。すでに丸坊主。彼らも新入部員なんだろう。でも、醸し出す雰囲気は全然違った。

 午後からのダブル。第二試合が終わったら、日もすっかり暮れ、足がキンキン冷える寒さが襲ってきた。それでも彼は一向に帰る気配がない。部員のグランド整備が始まる。対戦相手校は道具の後かたづけを始める。監督は相手校の監督と歓談。試合の審判をつとめていた年輩男性も挨拶をして、車でグランドを後にした。すっかり暗くなった中、残っていたのは父兄さん数人。それでも彼はその場が動くことはなかった。

 試合終了から40分ほど経った。監督がグランドから出てきたとき、ついに彼が動いた。監督はそんな彼に気付いた。「来ていたのか」。その表情は優しかった。一方彼の表情はちょっと硬かったけど、監督が「がんばれよっ」と肩を叩くと、思わず顔がほころんだ。初めて見た彼の笑顔。白い歯はさっきまでの表情とはうらはらにすごく幼かった。

 これからの3年間が、彼をがっくりさせたり、しらけさせたり、後悔させるものになりませんように。3年間、ここでがんばれてよかった。ありきたりだけど、彼の口からこの言葉を聞きたい。