女房様とお呼びっ!
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2002年03月13日(水) メバルの身の上

旧知の間柄であっても、日頃に疎遠にしていると、久々に連絡する折には何がなし緊張するものだ。無沙汰の間に相手の身の上が変わり、連絡することすら迷惑になりはしないかとか、疎ましく思いはしないかとか、余計なことを考えてしまう。相手が異性の場合には、尚更だ。不用意な連絡ひとつが、彼を悩ませるかもしれないし。

それは、M魚相手でも同様で、今回メバルに連絡するにあたっても、私は恐る恐る電話した。果たして、彼は開口一番「ああ!**さま!」と声を上げた。変わらぬ調子に安堵しつつ、それでも、即座には用件を切り出しかねる。「今度、そちらに出向くんだけど」ひとまず、言い訳がましく、突然に連絡した動機を言葉に含ませる。

「あ、いつですか?」訊き返す彼の声のトーンが少し落ちたのが気になったが、そのまま用件を続けた。これまでも、彼の地の不案内に乗じて、彼には再々面倒を頼んでいる。前回世話になったのは半年前で、その時の彼は嬉々として、勝手を飲んでくれた。しかし今回、少し間があって、彼の返答。「ちょっと事情が変わりまして…」

・・・・・。

メバルとの付き合いは、6年位になるのだろうか。私は、彼の大抵の事情を知っている。とはいえ、個人的に親密な関係を結んだ過去はない。彼には、知り合った当初から「主」がいたのだ。そう、彼もまた、DSのゴザの上の住人だ。しかも、そのゴザは、彼の日常に深く敷き詰められ、今や、生活の殆どはその上に築かれたものだ。

だから、彼の全ては、妻との関係や将来の生活設計まで含めて、「主」を伴侶と頼んで考えられている。しかし、世間の習いと異なる規範で生きゆくのは、思いの丈とは裏腹に、やはり閉塞感を呼ぶ。日々の悦びや希望、苦悩に至るまで、身近に打ち明ける道が閉ざされるのだから。それに、秘密を抱え込める程、彼は強くない。

そんな事情で、私は折々に彼の近況だの、愚痴だの、悩みだのの捌け口となってきた。「**さまは恩人です」幸か不幸か、M魚らしい身勝手さで彼は、自分より十も下の女をそう呼ばわる。彼の論によると、「M男性は最下層の民」らしい(笑)。幻想に囚われた傲慢に呆れもするが、そう思うのが心地いいなら、それでいいか。

・・・・・。

降り立つホームの混雑の中、メバルがドタドタと駆け寄ってくる。相変わらずだ。「大丈夫だったの?ごめんね」都合を貰った事を労うと、「いえ、お許し頂いてきましたから」と返事するのが、どこか誇らしげで、可笑しい。彼は、最近になって、暫く音信不通になっていた「主」から、再び召し抱えられることになったのだ。

小振りなセダンの助手席で、彼の尽きるともない近況報告を聞く。こちらも、勝手知った事情なので、相槌を打つも、質問を重ねるも、飽きることがない。ご親族のこと、妻のこと、仕事のこと、そして「主」のこと。「○○さんのお加減はどう?」「ハイ、最近は更年期も少し楽になられたようで…」彼女は、彼より更に年上だ。

「この歳になったら、プレイなんて忘れたと仰います」彼が笑う。「ボクも、偶に思い出す程度で、あまり…」それを聞いて、旧い記憶が蘇る。そういえば、ずっと以前、入院中の彼女を介護する一方で、鞭が恋しいと泣いたっけ、この男は。「何年になる?」「8年です」長いねぇ…と返しながら、時を過ごす重みに心が深くなる。

・・・・・。

メバルの身の上を、私はどこまで見つめていくのだろう。ふと、思いがよぎった。


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