女房様とお呼びっ!
その男に出会ったのは、SMテレクラを介してだ。かなり以前の話だけど。 M魚にしては軽快なお喋りをする、当たり障りのないタイプ。礼儀も悪くない。 随分と羽振りがいいらしくて、SMクラブで遊んだ経験をおもしろ可笑しく語る。 3人の女王様呼んで、オールナイトで何十万も使ったんだって。豪勢だねぇ(笑)
賑やかな話題は楽しいのだが、根本的に何を求めているかが伝わってこない。 遊ぶだけなら、キミ、クラブに行けばいいだろう?そんなじゃ、食指は動かんね。 大体、遊び慣れたM魚って「女王様印」の女を触媒にする自分本位が多いんだ。 私はそれにつき合う程お人好しじゃない。お生憎様。誰か、他の女を探しなよ。
すると、男の声の調子が少し変わる。威勢のいい自慢めいた響きが少し薄れて、 ある種のM魚に共通な、自らを嘲るような投げやりな調子でその告白が始まった。 「いえ、ボクね、SMプレイの経験は確かに多いと思うんですよ、金も使ったし。」 「ただね、ひとつだけNGがあって、それって手の動き封じられる事なんです。」
それを聞いて、私は正直吃驚した。ソンナコトガアッテイイノカ?とまで思った。 こいつは一体何をしてるんだ?何を求めてるんだ?・・・俄然、興味が沸いてくる。 それで会ってみることにした。そこそこ見栄のイイ、押し出しの強い感じの男だ。 社交的で行儀良い会話を操る。一切破綻しない。MとしてSに対面してるのにサ。
まるでMの魅力は感じなかったけれど、男の手枷NGの事情に依然興味が残る。 男の手を結わく仕掛けをあれこれ夢想して楽しんだ。我ながら悪趣味だわね(笑) その後も時折連絡があったが、特に進展もなく。表で食事をする程度の付き合い。 その間に男は事業に失敗したらしく、財布も持たずに現れることもあったよ(笑)
・・・・・。
ある日、男が電話を寄越し、切羽詰まった感じで懇願した。アッテクダサイ・・・! いきなりどうしたの?もう奢らないよと切り返すと、ナンデモシマスと言い募る。 なら、今欲しい鞭があるから買ってくれと言うと、自動的にカイマスカラと言う。 その勢いに気圧されて、男の我が儘につき合うことにした。鞭も欲しかったしさ。
待ち合わせの場所に、見違える程貧相な風の男が佇んでいた。何があったんだ? 挨拶程度に言葉を交わし、ショップへ急ぐ。男は黙って従う。雰囲気がヘンだぞ? 店へ着き、目当ての鞭を物色してると、落ち着かない様子で男が話しかけてきた。 「ボク、表で待ってていいですか?ここに居るのが恥ずかしいんです・・・」
その申し出にまたも私は驚いたが、取り敢えず肯く。逃げるのならそれもいいさ。 支払いをし表に出ると、果たして男は待っていた。路上で約束通り金を受け取る。 どうする?と訊くと、ソレデウッテホシイと言う。何を血迷ったこと言ってるの? 買った鞭は「丸皮九尾」しかも新品。無理だ。ひと振りで皮膚が裂けるぞ、キミ?
結局、最寄りのラブホに入り、私は鞭を取った。軽くふた振りで男は崩れ落ちた。 そして、そのまま突っ伏して泣いた。股の間で、金玉が頼りなげに揺れていた。 男がかつて金に飽かせて女を買い、SMな非日常を味わってたのは事実だろう。 けれど、いつも乾いたまま、癒されない自分に開き直った。そうじゃないかい?
鞭以外は何もせず、再び服を着るよう促した。男はのろのろとそれに従った。 ビールが飲みたいと男が言い、テーブルセットに向き合って、缶ビールを空けた。 暫くの沈黙が続き、男に落ち着きが戻る。アリガトウゴザイマシタと礼を言う。 その様子が尚辛そうで、私は悪戯に、男の手首を両手で掴む仕草をしてみせた。
けれど・・・アア、ヤッパリゴメンナサイとそれを退け、男は薄く笑った。
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