皇帝の日記
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母は英語が苦手なので、床屋に行きたがらない。 しかし元々江戸っ子なので、自分の身の回りの物がみすぼらしくなるのは嫌いだ。 着物は裏地にこるのが粋ってもんさ。 最近髪のすその長さが乱れてきたのが気に入らないらしく、何を思ったか最も危険な方法を提案してきた。
私に切れってさ。
思い立ったら即実行。 タラタラしてっと髪もうどんも京まで伸びちまうぜ。 そして母が私に手渡したのは、ずっしりと重みの有る
キッチン用ハサミ。
・・・おかあたま、こないだこれで蟹の殻を叩き切ってましたよね?
冷静に考えてみれば姿形の似たオフィスハサミと間違えたのかもしれないが、その時は「あるいはこの人ならやりかねぬ」という親族にしかわからぬ緊張感が有った。 新聞紙の上に座ってスタンバってる母の背後で文具用プラスチックハサミにすりかえる私。 すそを真っ直ぐに切るだけなので、しゃかしゃか切ってみる。 母はあまり真っ直ぐだと嫌だとのたまわったが、元々私の技術力で正確に真っ直ぐ切れるわけはないので、その辺は結果オーライということになった。 さすが江戸っ子、髪を結った後でわざわざ微妙に崩して粋を狙う心意気。 でもすそを揃える目的で始めたのに・・・となんか出口の見えないトンネルに迷い込んだみたいな不明感を覚える。
切り終わって振りかえった母は一言 「あら、そんなちっちゃいおもちゃみたいなハサミを使ったの?」
ええ、でかけりゃ良いってもんでもないですから・・・。
皇帝

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