井口健二のOn the Production
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2024年04月21日(日) ある一生、ふたごのミーとユー―忘れられない夏―、メイ・ディセンバーゆれる真実

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ある一生』“Ein ganzes Leben”
オーストリア・ウィーン生まれの作家ローベルト・ゼーター
ラーが2014年に発表。世界の40言語に翻訳されてドイツ語圏
だけで 100万部以上を売り上げ、2016年の国際ブッカー賞の
最終候補にもなった小説の映画化。
物語の始りは20世紀の初頭。オーストリア・アルプスの山間
の村に1人の孤児の少年が連れて来られる。少年は遠い親戚
の家に預けられるが、その家の当主は少年を手ごろな働き手
としか見ていなかった。
そこで少年は厳しい体罰を受けながらきつい仕事に従事させ
られるが、少年は決して弱音を吐くことはなく。それがまた
当主を苛立たせ、折檻の挙句の骨折で片脚を引き摺るように
もなるが、それでもへこたれなかった。
そんな少年の支えは預けられた家の老婆だったが、その老婆
が不慮の事故で死去。その家にいる理由が無くなった少年は
出奔。そこから様々な仕事に就き、それぞれで実績を上げ、
遂には1人の女性を見初めることにもなる。
しかし幸せが長く続くことはなかった。そんな主人公の80年
に及ぶ人生が描かれる。

出演は、主人公を2011年ウクライナ・キーウ生まれで1歳の
時にオーストリアに移住したというイヴァン・グスタフィク
と、ウィーン生まれで本作でバイエルン映画賞受賞のシュテ
ファン・ゴルスキー、それに2005年11月紹介『サウンド・オ
ブ・サンダー』などのアウグスト・ツィルナーが演じる。
他に、オーストリア出身で1991年生まれのユリア・フランツ
・リヒター。2023年5月紹介『ナチスに仕掛けたチェスゲー
ム』などのアンドレアス・ルスト。1987年『バグダッド・カ
フェ』などのマリアンネ・ゼーゲンプレヒトらが脇を固めて
いる。
脚本は1955年ミュンヘン生まれで、2001年製作の『マーサの
幸せレシピ』が世界的な評価を得たウルリッヒ・リマー。監
督は、1966年スイス生まれで同国映画界の革新者と言われ、
2016年製作の『アンネの日記』で多数の受賞に輝いたハンス
・シュタインビッヒラーが担当した。
決して波乱万丈というほどの大げさなものではないが、正に
時代の流れに翻弄され続けた男性の一生が描かれる。それは
成功者でもなく富を掴んだ者でもないが、その人生自体が満
足できる、そんな生涯かもしれない。
最後に主人公が埋葬される瞬間が、彼自身を描き尽くしてい
るようで、何とも感動的な作品だった。

公開は7月12日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順
次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アット・エンターテインメント
の招待で試写を観て投稿するものです。

『ふたごのミーとユー―忘れられない夏―』“เธอกับฉันกับฉัน”
2018年6月17日付題名紹介『バッド・ジーニアス 危険な天
才たち』などの映画会社GDH 559の製作で、1999年を背景
にした中学生の双子が主人公の青春映画。
ミーとユーは顔や体つきもそっくりの一卵性双生児。互いに
得意な科目が異なる2人は、不得手な科目の追試を身代わり
受験で乗り切るなど青春を謳歌していたが…。
その身代わり受験の教室でミーのふりをしたユーは、正解の
答案を見せた男子生徒が気になりだす。しかしその生徒は転
校で姿を消してしまった。
そんな夏休み、両親の都合で母方の祖母が住む田舎で過ごす
ことになった2人の前にその男子が現れる。彼もまた家庭の
都合でその田舎にやってきていたのだ。
こうして3人で遊ぶようになった姉妹たちだったが、正解を
教えてくれたのがミーだと思い込む男子生徒との関係に少し
ずつ齟齬が生じ始める。それは姉妹の間も同じだった。

脚本と監督は自身も一卵性双生児のワンウェーウ&ウェーウ
ワン・ホンウィワット姉妹。物語は2人の実体験に基づくも
のではないとしているが、いわゆる双子あるあるはいろいろ
盛り込まれていそうだ。
出演は、中華系のタイ人で本作で映画デビューを飾ったティ
ティヤー・ジラポーンシン。双子監督の許で1人で双子を演
じ分けている。相手役はベルギーとタイのハーフでテレビの
端役経験しかなかったというアンソニー・ブイサレート。
他に双子のスタンドイン役でナットワサー・シーヌデート。
顔は出ないが重要な役柄だ。さらにチェンマイ出身のスパク
ソーン・チャイモンコン。タイ映画に数多く出演のナティー
・ガームネオプロムらが脇を固めている。
双子は一緒に住んでいるところから始まるが、両親は離婚の
危機にあるという展開では、ドイツ人作家エーリッヒ・ケス
トナー原作『ふたりのロッテ』“Das doppelte Lottchen”
の正に裏返しという感じがした。
もちろん裏返しだから物語や展開などは全く異なるものにな
るが、夏休みで舞台が湖畔の町の設定など意識はしている感
じもする。監督へのonline取材はあるようだが、その辺を誰
か訊いてくれないかな。
この他、時代背景が1999年ということでY2K問題や、タイの
長距離バス事情など、いろいろ興味深いものが織り込まれた
作品だった。

公開は6月28日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社リアリーライクフィルムズの招
待で試写を観て投稿するものです。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』“May December”
1997年に起きた実際の事件を基に2006年に行われた映画製作
を踏まえて、2018年1月紹介『ワンダーストラック』などの
トッド・ヘインズ監督が描いた作品。
登場するのはある実録ドラマへの出演を控えている女優。そ
の女優は役作りのために事件の当事者に会うことを希望し、
事件が起きた街にやってくる。そしてその家族に迎え入れら
れて取材を開始するが…。
その事件とは、当時36歳の女性が13歳の少年をレイプして逮
捕され、有罪になったというもの。しかし彼女はその時に身
籠った子供を刑務所内で出産し、刑期を終えた後に成人して
いた少年と結婚したというものだ。
その事件から20数年が経ち少年が当時の女性の年齢になった
頃から本編の物語は始まる。その時、事件で生まれた子供は
大学生で家を離れており、さらに生まれた双子が高校の卒業
式を迎えようとしていた。
そして女優はそんな一家と向き合い、さらに様々な隠された
真実に遭遇することになる。

出演はナタリー・ポートマンとジュリアン・モーア。それに
韓国系俳優のチャールズ・メルトン。ポートマンは製作者に
も名を連ねてゴールデングローブ賞の主演賞にノミネート、
モーアとメルトンも助演賞にノミネートされた。
原案と脚本は、キャスティングなどで長く映画界に携わって
きたサミー・バーチ。夫のアレックス・メヒャニクとの共同
原案で執筆した初の長編脚本は米ア賞脚本賞のノミネートも
勝ち取っている。
そしてその脚本にポートマンが目を留めて今まで組んだこと
のないヘインズ監督にオファー。監督とは4度目のコラボレ
ーションとなるモーアとの米ア賞受賞者2人による初共演が
実現したものだ。
チラシの惹句には「当事者の心で追うか、よそ者の目で追う
か」とあるが、男性の自分にはなかなか当事者の心にはなれ
なかった。むしろ少年の心には考える部分はあったが、後々
のことを知ると成る程とも思えたものだ。
それくらいに女性向けの映画ということは言えそうだ。ただ
家族構成などはもう少し明確にしておいて欲しかったかな。
現地の人にはこれで判るのかもしれないが。

公開は7月12日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。


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井口健二