のづ随想録 〜風をあつめて〜
 【お知らせ】いよいよ『のづ随想録』がブログ化! 

【のづ写日記 ADVANCE】

2004年02月29日(日) とりあえず、帰還

 松山出張生活が終わった。
 今週は期末ということや新規開店店舗が集中したこと、そして俺がひとまず松山でのオツトメを終える、ということなどいろいろなことが重なってかなり忙しかった。業務の引き継ぎは殆ど出来ていない状況なので、恐らく3月にも2度3度は松山へ行かざるを得ないことになるだろう。ま、それはそれで大歓迎だ。なにしろ、松山での3ヶ月に俺はとうとう松山城にも道後温泉にも足を運ぶことが出来なかった。ココでもなんとかして行くぞ的な決意表明をして自分自身にもプレッシャーを与えたつもりだったが、結局忙しごっこには勝てず、おめおめと所沢に帰ることとなった。
 明日からは3ヶ月振りの本社出勤となる。

 今朝はちょっとだけ早起きをして部屋を撤収する準備から始まった。昨晩も3月から俺と入れ違いのカタチで松山に赴任する先輩社員とじっくり飲み明かしてしまったので、実はまったく帰り支度が出来ていなかった。帰路の飛行機はすでに予約してしまっているし、ツマもそれに合わせて夕食の準備をしてくれている。今日ばかりはきっちりと時間どおりに飛行機に飛び乗らねばならない。宅急便のおにいさんが集配に来る時間までにはなんとか荷物を段ボール2箱に押し込んで、まずはひと段落。最後の保存食であったカップラーメンを軽くすすり、タクシーで松山空港へ。会社や自宅へ土産物を選んでいたらすっかり時間を喰ってしまって、息を付く暇もなく予定どおりの飛行機に乗り込んだ。
 羽田空港からは自宅最寄り駅への直行リムジンバス。荷物を引きずってのモノレール、山手線などの乗り継ぎはかなり面倒なので、ちょっと割高だがこのほうがずっと楽なのだ。日曜日の夕刻の首都高および関越道は特に大きな渋滞があるわけでもなく、きっちり定刻通りに到着した。
「お帰りなさい。お疲れさまでした」
 食事の支度の途中のツマが玄関で迎えてくれた。
 土産をツマに渡し、着替えていると唐突にツマが言った。
「オット、驚かないでね」
「?」
「実はね、工藤が骨折しちゃったの」
「なにぃ!」
 最近の忙しさでスポーツニュースをしっかり見ていなかったが、そんなことが起きていたのか! 
 工藤公康。我がジャイアンツ投手陣の精神的支柱であり、貴重な左腕のひとりだ。工藤の怪我がジャイアンツ投手陣に与える影響は決して小さくない。その彼がオープン戦開始直前のこの時期に骨折とは!
「どんな状態なの?」俺はネクタイを解く手を止めてツマを見遣った。
「左足首骨折。ぽっきりと」
 そう言ってツマは立ち上がると、本棚の上の『ジャイアンツ選手フィギュア』に手を伸ばした。そこには、昨年コンビニで買い揃えた、上原・清水・二岡・真田、そして工藤の『ジャイアンツ選手フィギュア』が並べられているのだ。俺の宝と言っていい。そしてツマはそっと工藤のフィギュアを手にした。
「見て、オット」
「……」
「こないだ、掃除をしているときにハタキをかけていたら、つい“工藤”を落っことしちゃって――」
 見れば、その特徴ある投球フォームが再現された工藤の軸足である左足の足首から、まさに“ぽっきり”と折れてしまっているのだ。
「ひどい骨折だね、こりゃ。今シーズンは絶望的だ」
 家に帰ってきた、そう俺は実感した。



2004年02月25日(水) 知らないところで

 ちょっとムカついている、と言っていいだろう。
 前々回の更新『こんなことばっかりやっていて、俺は。』の巻において、『のづ随想録』は新たに『のづ写日記』なるほぼ毎日更新を目指す新たなコンテンツを増設し、さらにココのレイアウト・デザインを一新、『のづ随想録』読者を飽きさせまいとする涙ぐましい営業努力を実施したが、まあそんなことだから、折角の機会だし、たまにはこうワタクシあてにリアクションのメールでも送ってみたらいいじゃないですか──というまさに平身低頭な姿勢での投げ掛けを行った。

 リアクション、ゼロ。──ゼロ。

 ある意味、気分は晴れやかだ。ええ、晴れやかですとも。
 これはもう、どこかに『裏・のづ随想録』とかいう悪質サイトがあって、そこには夜な夜なネット上でココの読者が集っては、「のづにメール送んの、やめような」なんて示し合わせているに違いないのだ。そうなのだ。いいよ、もう。ぐすん。

 基本的にはワタクシの身辺友人のみしか訪れることのないココ『のづ随想録』なのだが、一方ではどこの誰だか知らない人に確実にココが読まれている、ということを実感して、すこし戦慄した。
 まず、アクセス数がここ最近異常に伸びたことがあったこと。
 先月、携帯電話の辞書機能で五十音順番に出てくる言葉を羅列して──なんてネタを展開したが、これはその本文にもあるように別のサイトで行われていた企画をすっかりワタクシが盗用したもの(ちゃんと、ネタ主の方にはメールでお断りしたけどね)。そのサイトではこの企画を『辞書メイツ』として大々的に展開し、今ではすでに100人以上の人が同じように自分の携帯電話の辞書機能で伺えるコトバ達がリンクというかたちで紹介されている。
 当然、この企画が流行りだした早い段階で俺は『のづ随想録』の中でネタとして採用したので、本家のサイトを通じてこの『のづ随想録』に訪れる人が爆発的に増えた時期があったのだ。1/26に8,000アクセスを超えたばかりだったのに、1ヶ月も経たない今日の段階で8,600強のアクセス。これまでのアクセス数の歯がゆいまでの伸びの鈍さを思えば、これは全く異常値である。
 誰がここのばか文章を読んでいるのだろう。怖い。

 もひとつ。
 たとえば検索サイト『goo』などで“愛媛県の郷土料理”というキーワードで検索してみてください。
 愛媛県への旅行を計画しているグルメ好きの老夫婦とか、社会科の宿題で調べ物をしている小学生などがインターネットでこの程度のキーワードを検索する可能性は決して低くない。
 ね、出てきたでしょ、『のづ随想録』が。
 今日、たまたま仕事中にこのキーワードを検索したら、テメーでやってるサイトが表示されて腰を抜かしそうになったんですよ。
 こんな風に、俺の思わぬところで無意味日記サイト『のづ随想録』が知らぬ人の目に留まっていると思うと、どうもこう、尻が落ち着かない。
 ま、ネットでこんなことをやってんだから、当たり前なんだけどね。



2004年02月22日(日) カウントダウン、松山出張生活

 あっという間の約3ヶ月、松山出張生活も残すところあと一週間となった。日々の仕事に追われるだけ追われて、道後温泉にも松山城にもいまだに行っていないのに、俺に残された時間はたった一週間。3月4日には坊ちゃんスタジアムで阪神vsロッテのオープン戦も行われる。3月も松山に残っていたとしたら確実に足を運ぶだろうに──などということを告知CMをぼんやりと眺めながら思う。

 やり残していることはなんだろう。
 道後温泉本館。国の重要文化財にも指定され、なんでも『千と千尋の神隠し』で出てくるナンカの建物のモデルにもなっているらしい。いや、俺、『千と……』って見てないんですよ。宮崎作品って、恐らくカリ城、ナウシカ、名探偵ホームズくらいしか見てないんじゃないかな。
──閑話休題――
 多くの文人に愛されたというココに足を運ばないというのは、オマエは松山で何をしておったのだ、ということである。
 松山城。事務所の人たちはあまりココをオススメはしてくれないけれど、それでもやっぱり基本は抑えておかなければならないだろう。春先には見事な桜が咲き誇り、花見客で賑わうらしい。ああ、花見もいいなあ。
 今治市の焼き鳥。焼き鳥屋が日本一多い街、と誰かに聞いたが、本当だろうか。先日、今治市で仕事をしたときに、なるほど繁華街(といってもせいぜい地方都市のそれではあるが)には焼き鳥屋の多いことを実感した。鳥好きとしてはこれもはずしたくないところだ。
 ピックアップはしたものの、まだ行けていないスーパー温泉が幾つもある。夜中でも構わないからなんとかして行ってみたい。
 プロ野球ファンとしてはやはり坊ちゃんスタジアムも行かねばならないところのひとつだろう。外からは何度か眺めたことはあるんだけれどねえ。

 いや、とりあえず、道後温泉と松山城、なんとしてもこの一週間のうちにやっつけておかなければ。たとえ仕事をサボってでも。



2004年02月19日(木) 帰還命令

 今週はどうも仕事以外でも忙しい一週間である。
 月曜日は俺が所属する部門の大親分が来松したので、まさかわざわざ東京からやってきた役員様を誰も相手にしないわけにはいかず、御用達の小料理屋で軽く食事会型飲み会。この時は調子に乗って強かに焼酎を飲みすぎてしまったにもかかわらず、その後会社近くのスーパー銭湯に立ち寄ってしまい、くらくらになって帰宅した。水曜日、すなわち昨日は他部門の同期入社である同僚が出張で松山へ来ている、と聞き、これは松山の激旨じゃこ天を食わしてやらなければならぬ、ということで御用達の小料理屋でワリカン接待。そして今日は、3月の人事異動で松山へ転勤となった先輩社員が先乗りで松山入りしているということでプレ歓迎会を御用達の小料理屋で開催。
 つまり、俺は今週、3度も同じ店で呑んだ、というわけだ。
 さすが瀬戸内、海産物で有名な四国ではあるが、特に松山では“じゃこ天”が有名。じゃこ(小魚)で作った、見た目は厚揚げのような練り物である。この“御用達の小料理屋”で供される“特製じゃこ天”がびっくりするほど旨い。スーパーや土産物として売られているじゃこ天は小判のように平べったいのが一般的な姿のようだが、ココのじゃこ天は普通の3枚分くらいありそうな厚みがあって、その上にいわしの開きがそのままずどんと乗っかっている。これのアツアツのところに醤油をたらりと一筋、一気に頬張るのが作法です。この“特製じゃこ天”を今週は何個食ったことになるのだろうか。

 人事異動。これも今の俺の忙しさに拍車をかけている。
 3月付けで今俺が勤務している松山に転勤となる社員がいるわけで、そのうちの二人がかつて世話になた先輩社員だ。一人は大阪、一人は浜松に勤務しているのだが、突然の人事異動を言い渡され、まずは住まいを探さなければ──という話になる。
 こういうとき、現地にいる誰かを頼る、というのはオーソドックスな手段だ。
『ああ、のづか。俺や。今度そっちに行くことになったからよろしくなあ。ほいでな、部屋を探さなあかんやろ。ちょっと、お前の知ってる不動産屋に幾つか部屋を見繕ってもらえへんかなあ。頼むわ』
「任せてください」
 二つ返事。そういう風に応える上下関係の中で俺は育ってきたのだ。
 年度末(我が社は2月)を迎え、ますます忙しくなってきている状況の中でそんな雑用がどんどん増えてくる。

 おまけに。

 俺自身も、今日、内示を受けた。
 特に異動はない、ということだったが、とりあえず予定通り2月いっぱいでひとまず松山を引き上げて、3月からは池袋に出社しろ、と。
 所沢に帰れる、という安心感はあるが、仕事となると安心などしていられない。引継ぎだなんだとまた忙しくなってくる。そして、どうせ池袋にいたとしても松山の仕事が俺を追いかけてくるに決まっているのだ。
“御用達の小料理屋”の女将が言うには今年の松山は例年よりも暖かいらしいが、出来れば、松山城を薄桃に染める満開の桜を見てから所沢へ帰りたい、というのも正直なところである。



2004年02月17日(火) こんなことばっかりやっていて、俺は。

 気分転換にココの模様替えをしてみました。
 元来ココのベースたる『enpitu』という日記HPは、俺のようにHTMLタグなど分からずとも、簡単なデザインが幾つか用意されているので、ちょこっと配色などを決めてあげれば相応に見栄えのするページは作れてしまう。年に2、3度、ココが微妙にデザインが変わっていることはもう皆さんお気づきですね。あ、言われなきゃわからない。ああ、そうですかい。
 このデザインの配色はもともと用意されているものをそのまま使ってます。一応、フォントや背景など細かく色の指定も出来るようになっていて、高校1・2年は美術クラスに所属した俺くらいになってしまうとココの配色などもその卓越したセンスで美しく彩ってしまうのだけれど、結果的には精神的にどこか病んでいますね、と診断されそうな色使いになってしまうのでやめました。
 で、やはり以前にも採用していたこのデザインが、いろいろ“遊ぶ”ことが出来るのでいいかな、と。
 タイトルの他にちょっとした一文が添えられる。今のところ、この『のづ随想録』のテーマソングになっている「風をあつめて」(はっぴいえんど)のサビの部分が採用されているけれど、これからは思い出したように変化を付けようと思っているので、この部分も楽しみにしていただきたい。

 そして。

 その一文の後にリンクを張ってみました。おお、やるじゃないか。やれば出来るじゃないか。
 【のづ写日記】というヒネりも何も無いタイトルがやや俯き加減にタイトル部分に鎮座ましましているのをお気づきになりましたか。『のづ随想録』のマンネリを打破すべく、こんな写真日記もやってみようかな、というわけです。こんなことばっかりやってて、俺は正しく生きているのだろうか。
 ケータイから写真と本文をこの写真日記のHPに送ると、それがそのまま反映されるという英知の結晶のような便利サイトを利用しています。毎日更新を目指します、はい。これが実現できれば、例え数日本来の随想録の更新が数日滞って、
「──ちっ、今日も更新されてねーじゃねえかよ」
 というような方にもこの【のづ写日記】を見ていただくことでお茶を濁す、という卑屈な姿勢であるわけです。
「あれ、のづ随想録にだって画像はアップできるんじゃないのか。こないだ、おまえ嬉しがって不思議タオルの画像とか貼り付けてたじゃねーか」
 などと重箱の隅を突こうとするヤツはいないでしょうね。

 まあ、ココを訪れる少数民族の皆様には少しでも楽しんでいただければなんて思いで始めます【のづ写日記】(早速タイトル変えたい気分になってるけど)。そんな営業努力をしているワタクシに、『いつも読んでます』とか『最近、勢いが衰えてませんか』とか『愛してる』とか『もうメチャメチャにして』とか、たまにはリアクションのメールでも送って来いってんだこん畜生。あ、いや、送ってね。



2004年02月12日(木) 連鎖反応

 珍しく、今日は朝イチからかなりバタついて、あわただしい一日の始まりであった。電話がじゃんじゃん鳴り響き、あの書類はどこだのあの資料をいつまでにだの、その殆どのベクトルがこちら方面に向かっているので、俺は狭い事務所を駆けずり回ることになる。
 そう、今、俺が勤務している事務所はかなり狭い。そんな狭い事務所に総勢12人もが詰めているのだから、職場環境としてはあまり芳しくない。それぞれ個人の資料もどんどん増えていくのだが、その事務方としての取りまとめを仰せ付かっている俺は、この事務所に来て2ヵ月半の間に膨大な量の資料を管理しなければならなくなっている。なぜそんなことになっているか、という話をし出すとかなり愚痴めいた方向へ向かってしまうのでココでは控えることにしたい。
 手狭な事務所で、俺は足元に二つのボックスファイルを置いている。ひとつはすぐにでも取り出したい資料をクリアファイルに入れて整理してあり、もうひとつのほうには一通りの文房具が放り込んである。
 上司から「──あの、××の契約書の控えを見せてくれ」と言われ、俺はすぐに足元のボックスファイルに手を伸ばした。

「  痛っ  」

 勢いあまった、という感じか。
 伸ばした指がそのまま鋭利なクリアファイルのエッジのところを勢いよくすべり、右手の中指の先端を3ミリほど切ってしまったのである。
 自慢ではないか、俺は“血”にめっぽう弱い。特に、「手」の怪我にはどうも敏感のようだ。
 包丁で指をかなり深く傷つけた血だらけの母の指を止血しようとして、その流血の多さに一瞬貧血を起こしそうになったことがある。健康診断の採血のときは、俺の視線は当然明後日の方向にある。テレビドラマの手首を切る自殺シーンなどまず正視できない。本気で「やめなさい」と止めたくなるのは、そいつの生死の問題ではない。自殺するなら他のチャンネルにしてくれ、と言いたいくらいだ。
 ほんのわずかな指先の傷だが、これが気になって気になって仕方がない。握力も徐々に低下し、右手の激細ペンが書く文字はもはや“象形文字の筆記体”のようになっている。
 不幸な事故は相次ぐもので、夕方、営業車で外出しようとした同僚が事務所のすぐ前の道路でバイクとの接触事故を起こしてしまった。相手側は大きな怪我ではなかったようだが、念のために呼んだ救急車でひとまず運ばれていった。
 あれこれ、身の回りには危険がいっぱいだ。



2004年02月08日(日) あなたもタラソテるといいです

 先週の予告どおり、今日は「マーレ・グラッシア大三島」へ行ってきました。なんだそれ、と思った人は先週の更新を読み返すように。残りの松山出張生活は温泉を満喫してしまおう計画第2弾であります。
 ちょいと寝坊をして、部屋を出発したのが10時半。コンビニでおにぎりとカテキン茶を買って、松山市内から、同じ愛媛県といえども瀬戸内海に浮かぶ島々のひとつ、大三島まで高速ぶっ飛ばして行ってきました。
 今回の目的地「マーレ・グラッシア大三島」は最近ちょっと耳にするようになったタラソテラピー(海洋療法)を取り入れたことで県内でもちょっと注目されている温泉施設のようである。実際テレビCMなんかもやっているので、それなりに有名なんだな、きっと。
 『西側の海に面している瀬戸内海を眺めながら露天風呂につかろう』
 という愛媛県温泉ガイドブックの謳い文句を目にしたら、これはもう行かなければならないでしょう。沖合いから取水した海水をそのまま沸かしたミネラルたっぷりの「海水風呂」も、なんか日々かなり偏った食生活を送っている自分には意味もなく健康そうでいいじゃないですか。「タラソテラピー」というと、頭と胸のあたりまでピンクのタオルを巻いて、海藻なんかで作ったジェルだかなんだかみたいなものを体全体に塗りたくる、というようなイメージがあるが、すくなくともここ「マーレ・グラッシア大三島」では“海水を沸かしたお風呂”というあたりで、その謳い文句に「タラソテラピー」を用いているようだ。俺のように思いつきでふらりと訪れる客に、そう簡単にタラソテラれても困るのだろうか。よく分からないが。

 お気に入りのCDを積み込んでドライブ気分で高速を飛ばす。抜けるような青空が広がり、気分がいい。
 事前にしっかり道程を調べなかった俺に問題があるのだが、目的地の大三島までは結構な距離だった。当然、瀬戸内海に浮かぶ島まで車で向かおうというのだから、それを連絡する高速道路の通行料もこれがびっくりするような値段だったり。大三島までは『しまなみ海道』という高速道路を往くのであるが、なんと途中は一度一般道に降りて、また高速に乗る、ということをしなければならない。ここまで来て引き返せるか──だんだん、そんな意固地な気分にもなってきた。




 なんとか大三島ICを降り、目的地まではもうすぐ。腹も減ってきたので、ここはなにか旨いものを。やはり瀬戸内海の島まで来ているんだから吉野屋の牛丼ってわけにはいかないので(当然、そんなものはないのだが)、愛媛県の郷土料理のひとつでもある『鯛めし』をやっつけてしまおうじゃないか、ということになる。
 大型観光バスも何台か駐車しているのが見えた「瀬戸内茶屋」というドライブイン的休憩所に立ち寄ることにした。食堂の入り口にはでかでかと鯛めしをアピールする看板がある。よしよし。
 食堂の客はほとんどがツアーや家族連れの団体ばかりだったが、程よく空席もあったので俺一人がテーブルについてもさほどサビシ感はなかった。メニューに一通り目を通し、すかさず「鯛めし御膳1,050円」を注文。こういう昼下がりのビールは、それはそれで旨いのだがここは当然我慢である。周りのグループ客がぐいぐいとビールジョッキを飲み干しているのを羨ましく眺めている頃に、俺の「鯛めし御膳」が運ばれてきた。




 旨そうでしょう。旨かったですよ、実際。最近、ラーメンだのチャーハンだの唐揚げだのカレーライスだのというB級な食事しかしていなかったので、あっさりと優しく出汁がしみ込む鯛めしとワカメのお吸い物が体全体に行き渡るようだった。小鉢に添えられていたタコの酢漬けもしみじみと旨い。瀬戸内のタコも名物のようですな。
 売店で思いつくままにお土産を買い込む。非常にそそられるアイテムもあったのだけれど、そんなものを買ってどうするんだというツマや友人達の誹りが聞こえたような気がして、涙を飲んで再び車に乗り込んだ。




 「瀬戸内茶屋」から5分と走らないところに「マーレ・グラッシア大三島」はありました。
 この温泉施設は、隣があの有名な「伯方の塩」の工場になっているようで、このへんにもどうも「タラソテラピー」を謳い文句にする背景が見え隠れしているような気がした。
 細かいことは気にせずに、500円の入浴料を払って、海水風呂にどぼん。ひゃー、気持ちいい……と湯で顔を拭えば、確かに塩気がする。ちょっと塩の味がするかな、という程度ではないのがびっくりだ。
 落ち着いて浴場内を見回してみると、それほど大きな風呂がたくさんあるというわけではない。洗い場はちゃんとあるけれど隣との仕切りがないので、シャワーを使うときにちょっと気を遣うなあ。海水風呂、サウナに水風呂、ジェットバスに日替わり湯と種類も少ない。ベランダのような屋外に出ると、展望風呂と歩行湯、ジェットバスがあるのだが、なんといっても展望風呂が今日のメインイベントだ。
 相変わらず天気はいいけれど、風がめっきり冷たい。青空を流れる雲もかなり急ぎ足になっている。そんな寒風を頬と両肩に受けながら、展望風呂からは絶景の瀬戸内海が望めるのだ。




 程よく温めの湯船に浸かりながら、緑色にさざめく静かな瀬戸内の海に島々、青い空、すこしずつ形を変えていく白い雲をぼんやりと眺める。展望風呂から50mも離れていないところにはもう小さな波が寄せていた。少し頭をめぐらせると、まだまだ高い位置で粘っている太陽が銀色に海を照らしていた。
 時折目をつぶって、湯船に(溺れないようにしながら)ねそべってみたりする。頬を突き刺す海風が少しだけ心地よい。その時、自分が何を考えていたのか思い出そうとしたのだけれど、頭に浮かぶのはやはり穏やかな緑と青と白だけだ。2時間近く風呂に居たけれど、その半分はこの展望風呂でぼーっとしてた。何も考えずに心の底リラックスできたのは、やはり海のおかげだろうか。これもきっと「タラソテラピー」なのかもしれないなあ。

 風呂上りはいつものようにコーヒー牛乳。レストランが休憩中になってしまってソフトクリームが食べられなかったのはハゲシく心残りだったが、保温効果のある海水風呂のおかげなのか、じっくり温まった体で車に乗り込むと、すこしだけ眠気を感じた。このまま、しばらく車の中で昼寝なんかしたら最高だろうなあ、と思ったけれど、来た道を戻る距離を考えるとそんな時間もなかった。



2004年02月06日(金) 忘れてしまう、ということ

 自覚しているのだけれど、これで結構抜けが多い。ちょっとした忘れ物や、「あれ、どこに置いたっけ」「ええと、何しようと思ったんだっけな」というようなこと。加齢による衰えというわけではない、ということは一応ここではっきりさせなければならないだろう。なぜなら、それはずいぶん昔からのことなのだ。“抜けが多い”というのは、言わば俺のキャラクターグッズみたいなもの。意味が通らないかもしれないが、まあ深く考えなくていいです。

 営業の仕事で外回りをしていたとき、朝の事務所で本日の外出先での資料の準備やらスケジュールの確認やら電話対応やらばたばたすることがよくある。ようやく荷物をまとめて、「んじゃ、行ってきます!」ということになるのだが、庶務の女性に「行ってらっしゃい!」と声を掛けられれば、そんな姿があわただしくも颯爽と事務所を後にするヤリ手営業マン──という(誰にも感じることの出来ない)オーラを自身の周りに発している気分になる。
 ところが、抜けの多い俺は大抵事務所を出てすぐ、たとえばエレベータを待っている瞬間などに、
「あ、××忘れた」
 となることが頻繁。そのまま事務所に戻る格好の悪いことといったら。「行ってきます」と事務所を出て、そのまま外出できることのほうが少ないのではないか、というくらい、ナニかの忘れ物に気付くのだ。

 今日は自分の愛用のペンを事務所内で紛失してしまって、素振りには見せなかったものの、自然な体を装いながらもココロの中はかなり狼狽していた。シャープペン・ボールペン・PDAの入力ペンという3WAYの、2,000円もしたペンだ。今日は特に外出をしたわけではないので、どこかで落としてしまったなどということは考えられない。なにより、ついさっきまで俺の右手の中にあったはずだ、という確信がかえって自分に腹立たしい。ついさっきまで俺の右手の中にあったはずのものが、何故、ない。約15分も仕事を中断して探しまくった挙句、事務所の小型冷蔵庫の上に転がっていたのを発見したときは、もう、情けなくなった。

“あるはずのものがなくなってしまい、実はこんなところにあった”という話は、実家の母親の話が最高だ。
 それは俺が高校生くらいのときであったろうか。仕事から帰る母は、時折食材などを大量に買い込んでくることがあった。その日も、スーパーマーケットの大きなビニール袋を両手に提げて、母は帰宅した。そして、すぐに冷蔵庫に入れなければならない食材を選び出して、冷蔵庫の中に押し込んでいった。
 しばらくして、台所で夕食の支度をしている母の様子が少しおかしいことに気付いた。俺はリビングでごろり横になりテレビを見ていたのだが、背後の母は冷蔵庫の扉を何度もぞんざいに開け閉めし、確実にいらついているようだ。
「どしたの?」
「ないのよ」
「ナニが」
「鶏肉」
「え」
「今日、スーパーで買ってきたはずの鶏肉がないのよ」
 冷蔵庫の中は──と言おうとしたら、母はすでに再び冷蔵庫の中に顔を突っ込んでいる。
「ないわないわ。鶏肉がないわ」
 勝手にしてくれ……。そう思いながら俺はテレビに戻った。
 それから10分程してからだったろうか。「あった! 見つかった!」という母の歓喜の声が台所から聞こえてきた。俺が頭をめぐらすと、まるで格さんが悪代官達に葵の印籠を見せ付けるかのように、母はパックに入った鶏肉をこちらへ差し出していた。
「どこにあったの」
「それがね、ここ」
 嬉しそうに母が指差す先は、包丁やおたまなどが収納されている台所の小さな引き出し。

 なぜそんなところに鶏肉をしまったんだ。
 そして、なぜそこを探したんだ。

 母のそんな部分は、確実に俺に引き継がれている。



2004年02月02日(月) 温泉三昧、はじまる

 松山出張生活が始まって、約1ヶ月半。
 丁度一年前の今日は滋賀県大津市にいて、マイナス2℃の琵琶湖のそばで寒風に打ち震えていたことだなあ。で、今年は愛媛県か。本部にいる同僚から「来年は北海道ですか」と時々揶揄されるが、これが結構笑えなかったりするから堪らない。
 指折り数えてみたんですよ。昨年一年間で“自宅にいなかった日数”。長期出張に加えて、昨年はあちこち出張することが多かったのでそいつを含めてざっと計算して約21週間。ええっ。ってことは、5ヶ月ですよ5ヶ月。これだけ家を空けていたら、そりゃあツマに「また来てね」と笑顔で送り出される訳だよ(実話)。

 2月末までと延期になった今回の出張生活、以前に比べると多少余裕が生まれてきた感もあり、ここはひとつ休日は休日として確実に楽しんでしまおうと考えている。週休一日、というローテーションはこれまでと変わらないだろうけれど、無理やり一日くらい平日に休暇を取ってもいいんじゃないか、せっかく温泉と文学の街・松山にいるのだから相応に時間を過ごしてもいいんじゃないか、ということだ。

 で、昨日行ってきました。『見奈良天然温泉 利楽』。
 松山市内から車で20分くらい郊外へひた走ったところにある大型温泉施設。また温泉かよ、と思ったかもしれないけれどそれがナニか。
 残りの松山生活を満喫する為に『愛媛の温泉・銭湯 人気の150軒』というガイドブックを購入、厳選に厳選を重ねた上でまず最初に「行かねばならぬ」と拳を握った場所がここ。遅い朝食のビッグマックの後、お昼ちょっと前にはすでに入浴料850円を支払っておりました。
 ここ『利楽』の最大のウリは、その露天風呂の充実しているところ。屋内の大浴場や泡風呂は標準的なサイズで、その分洗い場がすこし狭くなってしまったくらいなのだが、兎に角露天風呂は素晴らしい。
 通常の岩風呂に加え、寝湯(寝そべって入る泡風呂)、歩行湯(緩やかに流れる湯の中をじっくりゆっくり歩く)、打たせ湯(頭上から湯がどどどどと降ってくる)、洞窟湯(屋外に設えられた洞窟がある)、水風呂(言わずもがな)などなどがすべて露天風呂になっているのだ。昨日の松山は2月とは思えないほどの陽気で、寝湯に寝そべっていると日差しが気持ちよくてそのままどこか遠くへ連れて行かれそうな気分だった(実際、露天のベンチで横になっていたら暫く眠りこけてしまったのだが)。
 風呂上りはコーヒー牛乳、ソフトクリーム&日本茶の俺的王道で〆る。
 友人からは『道後温泉には行かないのか』と問われたが、事務所から車でほんのちょっと走ったくらいのところにあるので何時でも行けるやあ、と思ってしまっているのですよ。
 で、来週はちょっと遠方の温泉に行く予定です。“タラソテラピー”って知ってます? 海辺のおだやかな環境のもと、海水や海藻など、さまざまな海の資源を使って、人間の自己治癒力を高めていく自然療法なんだって。なんだかよくわかんないけど、気持ちよさそうなのでココへ行ってみようかな、と。
 温泉三昧、はじまる──。


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