「硝子の月」
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2005年05月18日(水) <揺らぎ> 瀬生曲

「さあ、席に着くがいい。遠慮は要らんぞ。儂の奢りだ。カサネ、お前もだ。お前はただでさえ人目を引くが、そうしていると余計に目立つからな」
 王は機嫌よく自分の前の席を示す。確かに、他の客達はちらちらと、或いは堂々と、こちらを気にしている。注文を取りに行っていいのかと遠巻きに眺めている店員が何とも気の毒だ。
「御心のままに」
 そんな周囲の様子など気にする風も無く、カサネは席に着く。紫闇の瞳に促され、グレンもそれに倣った。
 恐る恐る近寄ってきた店員に、老人は自分と同じ物を運ぶように言う。彼が王だなどと、誰が思うだろう。
(何が、どうなってるんだ?)
 困惑するばかりの青年に向き直って、彼はまたにやりと笑った。身に纏う雰囲気が一層若やぐ。
「儂も『硝子の月』を探しておるのだ」
 何の前置きもなく唐突に告げられた言葉がそれだった。


紗月 護 |MAILHomePage

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