「硝子の月」
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2004年07月23日(金) |
<災いの種> 瀬生曲 |
「さあ、な」 答えたカサネの顔が、からかうような微笑に見える。何かを知っているのに隠しているのではないかと思い、この場にはいない少女を思い出す。 (あいつもこんな風に笑う) 実際には違うのかもしれない。けれど、今のティオにはそう思えた。 「生憎と私にはわからない。しかし、そうだな」 彼女は自分の相棒に目をやる。黒いルリハヤブサは応えるように首を伸ばす。 「こいつや、アニスならばわかるのかもしれないな。あるいは、運命を知るという少女なら」 ならば不思議な力を持つとも言われる希少な鳥とあの少女とは、同じ位置にいるということか。 「私は気に入っているぞ」 不意に、カサネの鳶色の瞳が笑みに細められる。 「あの子も、お前達も、あの男もな」 「何の話だ?」 計ったかのようなタイミングで戻ってきた青年に、彼女が吹き出す。 「何だよ」 「いいや。それでは出掛けようか」 笑いながらグレンの肩を叩いて促す。 「ったく、わけのわからん女だな」 ぶつぶつ言いながら、青年に本気で不機嫌になった様子は無い。 「お前も行くだろ? マントはいいのか?」 確認のようにティオに言った。 「行かない」 問われたほうでは無愛想に答え、アニスの喉をかりかりと撫でる。 「具合でも悪いのか? 傷がまだ痛むとか…」 「違うって」 これまでにも度々思ってきたことを、また思う。この男は案外面倒見がいい。
「……は? 何か言ったか?」 「いいや別に」 振り返ったグレンの言葉にカサネは軽く首を振る。 グレンはやや怪訝そうに眉根を寄せたが、すぐに考えるのを放棄してあっさりと身をひるがえした。 「ふん? ……ま、いいか。 さて、俺は出掛ける用意でもしてくるかね」 グレンはキィとドアを開けた。その背中が、少女達の後を追うようにドアの外に消える。 ぱたん。 閉まった扉。ほんの一瞬、世界からさえ切り離されたような錯覚を覚えてティオは苦笑した。 本物の世界の外の感触を、自分は知っている。白い光をこの手で収めたあの時のように。 あれが一体なんだったのか、その答えを未だ自分は知らない。 「……人じゃなきゃ、なんだ?」 「……ん?」 ぽつり。やや遅れて零れた言葉にカサネが顔を上げる。 彼が問い返したことが意外だったのだろうか。彼女にしては驚いたようなかおで、静かにこちらを見返している。 ティオは膝に乗せたアニスの羽根を撫でた。そうしながら、ぽつりとどうでもいい口調で言葉を続けた。 「人じゃなきゃ、一体なんだ?」
2004年07月06日(火) |
<災いの種> 瀬生曲 |
「人の気配か……」 二人の少女を見送った後に、カサネが小さく呟く。 「案外『人』ではないのかもしれないな」
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