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2002年06月27日(木)
〜 更新履歴 〜 「bl01」他追加

ギャラリー」に、ビーズアクセサリーを追加しました。「bl01」「vi02」「gr01」「br03」「vi03」「rd01」の6点です。



2002年06月24日(月)
■『カメレオンの呪文』 ★★★★☆

著者:ピアズ・アンソニイ  出版:早川書房  FT]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
魔法がすべてを支配する別世界ザンス。この地では、誰もが独自の魔法の力を持っていた。だが、青年ビンクだけは別だった―魔法の力がないのだ!25歳をすぎても魔法の力がない者は、この異世界にとどまることはできない。これがザンスの掟だ。ビンクもあとひと月で25歳。彼は、己の内に潜む魔法の力を捜して旅に出たが…。鬼才が緻密なプロットと奔放な想像力を駆使して描いた、1978年度英国幻想文学賞受賞作。

【内容と感想】
魔法の国ザンスシリーズ第1作目。魔法のある土地ザンスに生まれ、魔法の力を持っていることを証明できないために追放されようとしている青年ビンクの冒険の物語。


ザンスは魔法の存在する地である。人間は、魔法のない土地マンダニアから移住してザンスに住み着き、長年その地で暮らすうちに魔法の力を使えるようになった。現在ザンスは生きものの出入りを封じるシールドで覆われていて、マンダニアの人々の目に触れずひっそりと隠されている。

ザンスでは魔法を使えない人間は追放されることになっている。特にこれといった力を示すことの出来ないビンクは、力のある魔法使いハンフリーに自分の力を証明してもらうため、旅に出た。ザンスでは生命のないものでも魔法の力を持っていて、道のりは危険が多く、旅は困難の連続である。ビンクの旅と共にザンスの歴史が語られ、不思議なザンスでの魔法の在り方が紹介される。


魔法の世界を扱ったファンタジーとは言え、魔法が万能とは扱われていないところが良い。ある一定の法則の働いているし、扱える魔法の種類も個々人の得意分野に限定されていて、さまざまな制約事項に縛られている。この辺の理詰めの成り立ちがSFっぽい。ビンクは魔法の力は示せないものの、知恵を働かせることによって困難を切り開いてゆく。

魔法でさまざまなことが可能なザンスではあるが、それ以外はむしろ、非常に理詰めにストーリーが進んでゆく。魔法よりも、論理的な発想や試行錯誤で困難を切り抜け、何よりも忠誠心や正しいと思うことに勇気を持って忠実に行動していることに好感が持てる。悪しき魔法使いでさえ、卑怯なことなどせず、かなりまっとうに行動しているのである。

また、魔法もさまざまなものが登場していて楽しめる。想像上の生き物のドラゴン、バシリスク、コカトリス、スフィンクス、ハーピー、フェニックス、グリフィン、キメラなど総動員だし、他にも独創的な魔法で守られているものがたくさん出てくる。成り行き上一緒に旅をすることになるカメレオン娘やトレントも個性豊かで、共に苦難の旅を乗り越えていく。


ビンクがザンスにとどまれるかどうかをかけた冒険はひとまずこの巻で決着がつくのだが、ザンスにまつわる謎はまだまだあって期待をそそる。なぜザンスの地には魔法の力が働くのか。それはどういった性質の物なのか。シールドで交流が閉ざされたザンスはこれでいいのか。この1巻だけでも話は完結していて楽しめるが、伏線も多く張られていて、それがどのように展開するのか楽しみである。



2002年06月10日(月)
■『ホームズと不死の創造者』 ★☆☆☆☆

著者:ブライアン・ステイブルフォード  出版:早川書房  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
現場の白骨死体には遺体の肉を栄養にして成長した花がからみつき、謎のメッセージが残されていた…25世紀末、ナノテクと生物学の進歩のおかげで、人類は数百年もの寿命を獲得していた。だがそれでも殺人事件が絶えることはなかったのだ。花束を持つ謎の女性の訪問とともに起こる奇怪な連続殺人事件に、女性刑事シャーロット・ホームズとフラワー・デザイナーのオスカー・ワイルドが挑んでいく!話題のSFミステリ

【内容と感想】
 買うときも中身をパラパラ見て迷ったのだが、案の定いまいちだった。SFとしての背景はそれほど悪くないのだが、探偵物としての部分が全くダメで、シャーロック・ホームズやオスカー・ワイルドとからめたことでさらに無理が出ている気がする。

 事件の担当刑事がホームズなのだが、ここまで何の役にも立たない刑事というのも珍しいかもしれない。さらに容疑者の一人でもあるオスカー・ワイルドに振り回されていて、いくら25世紀で殺人事件がほとんど無いといってもそんな陳腐な捜査はしないだろうと思う。普通ならワイルドが捜査に関わろうとするのを止めるだろうし、ワイルドの推理(というかカン)を聞いているだけなのである。またホームズの上司役にワトソンを持ってきたのもよくわからない。なぜ立場が元ネタと逆転しているんだろうか。

 ホームズのシリーズは一通りは読んでいると思うのだが、オスカー・ワイルドの方はほとんど読んでいないので、いろいろ原作と絡めた含みがあるようなのだがわからなかった。そもそもホームズとオスカー・ワイルドとSFの読者層は、それぞれ違っていて、それらを合わせて読みたがる人というのもあまり居ないのではないだろうか。


 舞台設定は、子供が生まれることが極端に減り、人は皆二度三度の若返り手術を受けて何百年と生き続けるという25世紀末。この作品の前に22世紀末を描いた『地を継ぐ者』という作品があるそうだが、それを引き継いだ300年後の世界らしい。あまり内容としては前作は関係ないらしいのだが、背景となる世界の設定が読んでいてもあまりよくわからず、説明不足という気がする。


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