ヒマラヤへ遠征登山にでかけるHを見送りに上京して、数日ぶりに 晩秋が近い信州にもどる。
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夫婦円満のこつは−私の考えるところによると−、趣味や考えが共通していることではない。 思いやりも必要だが、それは夫婦関係に限らないものである。
それは二つあって、まず一つは笑いのつぼが似ていることである。 ささやかな出来事から同じおかしみを感じとれることは、日常生活に飾られた花である。
もっと重要なもう一つは、嫌なものが一致していることである。 こういうのは下らないねと、はばかることなく腹の内を明かし、 その理由について分析し、回避できる安楽といったらない。
そういうわけで、私とHはもうずっと、 意味の無い権威や慣習や、脅迫に近い親切の押し付け、 そのほか沢山の嫌なものから、一緒に逃げている。
そう、夫唱婦随を我が家に摘要するならば、それは逃げ足においてである。
Hは、その手腕においては比類なき才能を発揮し、 小動物のように感知し、ガゼルのように走りぬけ、鶏のように忘れてしまう。 その積み重ねにより、今や必要があれば標高6500mまで逃げ切ることができる。 我が国が大陸にあったならば、トラップ一家のような国境越えも可能である。
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その逃げる男が再びヒマラヤへ旅立っていった。 新宿駅の湿った空気が、まだ身体にまとわりついている。
Aにとっては4度目の見送りになり、別れ際には、どうか自分のことを忘れないでくれと告げていた。
私は風邪を引いた上に、久しぶりの東京で頭がぼんやりしているうち、 ろくに話もしないまま、彼はいなくなっていた。
2005年10月22日(土) 消費者熱狂 2004年10月22日(金) はんらんの話
2008年10月16日(木) |
水際でくい止めるものは |
年金支給日だというので、振り込め詐欺防止のために、 全国の銀行へ警官が張り付いているのだそうである。 近くの地方銀行に行ってみたら、3人の警官が年寄りの客を囲んでいた。
振り込め詐欺は深刻に違いないが、 今日日なんだか、取り付け騒ぎを警戒しているように見えてしまう。
2006年10月16日(月) 通うな危険 2005年10月16日(日) 真夜中の引力 2004年10月16日(土) 前腕部怪奇譚
空高く飛んでいたトンボもどこかへ姿を消し、 稲穂を垂らした田も、週末ごとに刈田へと姿をかえ、 収穫を祝う祭りも例年通り盛大のうちに終わった。
突然かかってきた仕事の電話ではっと正気にもどってみれば、 かようにして秋も中盤にさしかかっているのだった。 じゃあ当てにしてもいいですね、という念押しに、喜んでと応える。
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ビスケットやプリンを日がな作っている日々よさらば、である。 ロシア人のように遊び暮らした夏は終わり、 ここに、勤勉な日本人の秋冬が到来したのである。
忘れずにいてもらえることのありがたさをかみしめながら、 段取りをどうするか、熱いコーヒーでも淹れて、ゆっくり考えよう。
2006年10月07日(土) 2004年10月07日(木) 大義書き換え上のご注意
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