「硝子の月」
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「アニス!」 名を呼んだのはほとんど反射的なものだった。 しかし、すぐに窓の外に飛び出していくと思われた親友は、ただ静かにティオを見つめている。 「……確かめなくていいってことか?」 アニスは止まっていた椅子の背から二、三度羽ばたいて少年の肩に移ると頬擦りをした。それは肯定でもなく否定でもないと感じられた。 ふと視線を向けると、運命を知るという少女もこちらを見つめていた。 「決めるのは貴方よ」 「行く」 すぐに答えたのは、迷わないと決めたから。 「よし。待ってろ怪我人。俺が突き止めてきてやるよ」 グレンが少年の頭をぽんと叩いて駆け出す。 「盗んで逃げるなよ」 「いたたた、古傷を。もうそれはやめろって」 何を言っていいか判らないままティオの口をついて出た言葉に冗談っぽく顔をしかめて見せて、青年はそのままドアの向こうに消えた。 「苦労性ねぇ、やっぱり」 それを見送ってルウファはくすくすと笑い、ティオに向き直る。 「その間に貴方は少し休むこと。いつまでも怪我人でいてもらっちゃ困るんだから」 「誰のせいだ」 「いいからほら」 ほとんど強制的に寝かしつけられる。アニスはルウファの肩に移った。 「あら。珍しいわね、ティオ以外の肩に乗るなんて」 「ぴぃ」 喉の下をかりかりと撫でられて、ルリハヤブサは気持ちよさそうに目を細めた。アンジュの膝の上にいた時にも思ったことだが確かに珍しい。
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