「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
「ぶしつけですが、ファス・カイザにはどういった御用で?」 リディアは切れ長の瞳でじっとルウファ達を見つめた。 男装のよく似合う中性的な美貌には、穏やかな口調と裏腹に静かな威圧感のようなものが感じられた。当人は笑顔を浮かべているのだが。 「ええ…実は」 『伝説の硝子の月を探しに…』なんてシラフで言えるわけがない。さて…。 しかし、ルウファが刹那の逡巡を見せる前にアンジュが口を挟んだ。 「リディアったら。この時期に首都に行くなら建国祭に決まってるじゃない」 質問に隠れた意図なぞ、まるで気付かないのだろう。アンジュは不思議そうに忠実な従者を見つめる。 「へえ? 建国…ぐえ」 「ええ、そうなんです。第一王国の記念すべき式典ですものね」 アンジュ達の死角から入った肘打ちを見て、グレンに同情するのと同時に隣に座らなくて本当に良かったと心から思うティオであった。
|