「硝子の月」
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(…まあ、お嬢ちゃんには分からねえか) グレンは、少女に見えない位置で小さな苦笑を浮かべた。 (厄介だよなあ、大人未満のくせに、意地でも大人になろうとする…それも、今すぐにでも。できるわけねえのに…さ) 自分がそうであったように。 「もっとも、すんなり認められれば…苦労はしねえか」 ため息を含んだ独り言の後、苦笑は別な表情に変わった。それはセピア色をした優しい笑みだった。 「何か言った?」 「うんにゃ、なにも」 怪訝な顔のルウファの前でひらひらと手を振る。 (無力だろうさ、今は。広い世界に出て一番先に感じたのは、多分それだろ? 子供のままじゃ届きようもない。探し物に近づくことすらできないで、半病人のお荷物になってるのが現実。 だけどそれでも、どうしようもなく求めちまうから、ああして飛び出すしかなかったんだな。きっと) ルウファの優しさとグレンの林檎は、癒しと同時に別のものも与えたのかもしれない。 (動けない以上、余計に考えるしかない。そして、それに耐えられなくなった。…そんなところか) 揃って戸口から出ると、そこには嫌味なほどの完璧な晴天があった。 「じゃあ、私はこっちを探すから…一応これ、お願い」 積み上がった木箱にめり込んだまま伸びている『これ』を軽くこづいて、後は知らんとばかりに歩き出す。うめき声がしたからじきに目を覚ますとは思うが…。 遠ざかる華奢な後姿を見ながら、グレンはしばしの間、思案した。 (一体何者なんだろうな、こいつと…) ルウファ・ルール。 ティオとさして歳も変わらぬはずの…けれど、不惑の強さを備えた少女。まるで己の運命を知り尽くしているかのように、その言動は勝気な自信に満ちている。 現に、いつの間にか一行の主導権は完全に握られているではないか。 ティオとは対象的とも言える。意地や負けん気は良い勝負かもしれないが、内包する脆さは比べるべくもない、心の空洞を無理に張り詰めて覆い隠した、砂の壁。今、それは限りなく不安定になっているはずだ。 そしてふと、真顔になってこう思った。 (だとしたら、この中の誰よりも硝子の月に近いのは…ティオ
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