「硝子の月」
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2001年09月25日(火) <旅立ち> 朔也、瀬生曲

 やさしいばかりの暮らしではなかった。けれど憎みきれるほどに悲しい日々でもなかった。
 …振り切るように、少年は前を見る。道を。

「───行こう」

 ピィ、と鳴くルリハヤブサの声だけを連れ、少年は歩き出した。
 道の果ては空の境目に消えている。どこまで行けるのかも知らないけれど。

(…どこまでだって)

 くっと顔を上げる。…得たばかりの慣れない自由を胸に。
 どこまででもゆけるのだと、高い空を見上げた。


―― ☆ ――



「まぁ、いいんだけどさ」
 少女は右手のカードを唇に、仕方なさそうな溜息をついた。
「これがあたしの運命だって言うんなら」
「ルウファ。嫌ならおやめ」
 薄暗いテントの中で、卓を挟んだ向かい側に座る老婆が視線だけをちらりと上げる。
「嫌じゃないわよ、別に。嫌じゃないわ」
 そう言う割には「不本意だ」と顔に書いてある。
「行くわよ。行かなきゃ始まらないんだし。どうしたってあたしの人生だし」
 半ば以上独り言のように呟きながら卓の上に広げてあったカードをまとめ、荷物の中へ。彼女の服装は旅をする為のものだ。


紗月 護 |MAILHomePage

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