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2001年12月09日(日)
■『エンド・オブ・デイズ』(上・下) ★★★★☆

著者:デニス・ダンヴァーズ  出版:早川書房  [SF]  bk1bk1

【あらすじ】(下巻カバーより)
現実世界にそっくりでありながら病気や貧困、死から開放されたユートピアのような世界<ビン>―この仮想現実が地球の軌道上につくられて、百年あまり。仮想現実に入らなかった信仰心あつい人々をひきいる狂信的リーダー、ガブリエルは、破壊されたはずの<ビン>がまだ機能していると知り、ふたたびその破壊を企てていた…人々の夢と希望がつくりだした仮想現実世界と現実世界のあいだで展開される恋と冒険の物語

【内容と感想】
 『天界を翔ける夢』の続編にあたる。シュワちゃん主演の同名の映画とは全くの別物。前作の設定を踏襲しているが、内容は別の話で時代も70年後である。何人かはどちらにも登場している人もいるが、前作は読まなくてもほとんど支障がない上に、こちらの方がSFとしてはよくできてると思う。そもそも前作は<ビン>の成り立ちなどはほとんど省かれていたのだが、この作品では<ビン>が作られた当時どういうことがあったのかが詳しく語られていて面白い。コンストラクトが作られた経緯ももっと詳しく語られている。


 ニューマンが人格のデジタル化に成功していたとき、ティルマンによりクローン人間を急速に成長させる技術が実現していた。<ビン>が建設され軌道に打ち上げられるまでは、<ビン>のかわりにクローンの肉体に人格をダウンロードしていた。彼らを雇って開発を進めていた人々は、その技術を使ってコンストラクトを生み出し奴隷制度を復活させた。ティルマンはそれを知って止めようとしたが、失敗し、自分の人格を<ビン>のプロトタイプのコンピュータに死にかけながらアップロードする。そうしてそこにたった一人で囚われたまま、100年が過ぎていた。

 前作で<ビン>はカルト教団から身を守るため、地上との通信を絶ち、切り離されていた。地上は今ではガブリエル率いるクリスチャンソルジャーにより破壊されていた。彼らが敵とする<ビン>は破壊されたはずだったが、彼らの信じる「終わりの日」は来ず、相変わらず敵を作っては破壊する集団だった。

 ティルマンの人格の入ったコンピュータは、クリスチャンソルジャーのサムに発見された。本来ならすぐに報告しなければならないのだが、サムが自分の人格をアップロードしたとき、そうしようと思えばティルマンはサムの肉体を奪うこともできたのにそうはしなかったという理由で、サムはティルマンの望みをかなえようと自分の身を危険にさらす。

 コンストラクトの住む町でティルマンを<ビン>にアップロードする手筈を整えていたサムは、コンストラクトの売春婦ローラに出会う。ローラは切り離された<ビン>と交信する手段を持っており、ティルマンの人格と共に<ビン>に向かった。

 <ビン>には、ニュービーと呼ばれる<ビン>生まれの人々がいた。ドノヴァンもその一人で、最初から肉体を持たずに生まれてきた彼は「死」について研究を続けていた。<ビン>では生命は永遠に続くため「生」が意義深いものとならない、意義ある「生」を送るために「死」が必要であると、彼は講演していた。その講演を聞き、死にたいと申し込んできたステファニーは、ティルマンのかつての恋人だった。また、ローラはステファニーの遺伝子から作られたクローンの子孫だった。

 アップロードしたいティルマンと、ダウンロードしたいステファニーがようやく巡り合い、二人はサムとローラの助けを借りて一緒に生活できるようになる。

 一方ティルマンの入っていたプロトタイプのコンピュータが発見されたことにより、<ビン>は再びガブリエルにより狙われていた。ニューマンは<ビン>が破壊されても大丈夫なように対策を講じ、死にとらわれているドノヴァンをダウンロードさせてガブリエルの元へと送り込む。


 ストーリー自体もなかなか面白いが、それ以外のテーマもなかなか面白かった。ステファニーはスーパーモデルとして非常に有名で、自分の肉体を嫌がっていた。一方ティルマンは非常に醜く、自分の容姿にコンプレックスを持っていた。二人とも肉体はすでになく、自由に見かけが変えられるバーチャル世界で、それでもなお、かつての美醜にとらわれている。また、ドノヴァンの死へのこだわりも、いろいろエピソードがあり、ストーリー全体の流れの中でそのこだわりが大きな役割を担っている。

 エピローグがなかなか良くて、生命の流れといったものを感じさせる。ずっとテーマとなっていた、死も形もここでは問題ではなくなっている。

質問:若さとは心の状態です。でも、教えてください、ドクター、それほど死に興味をもっておられるのなら、なぜご自身が自殺なさらないのですか?

 たぶん彼もできないのだ、とステファニーは思った。

答え:自殺は絶望ゆえの行為です。ぼくが望むのは意義ある死なのです。
質問:では、なにが死に意義をもたせることができるのでしょう?
答え:意義ある生ですよ。(本文より)

“あらゆるものに価値がある、さもなければ価値あるものは、ひとつもない。”(本文より)

「真実は美しいわ」ステファニーは言った。(本文より)



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