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2001年10月25日(木)
□『旅立つ船』 ★★★★★

著者:アン・マキャフリー&マーセデス・ラッキー〔共著)  出版:東京創元社  [SF]  bk1

【あらすじ】(カバーより)
「かわいそうな少女を生かしてやれる可能性はただひとつ、殻人(シェルパーソン)プログラムに入れてやるということです」七歳のおしゃまな女の子を襲った病は、容赦なく彼女を全身運動麻痺にまで追いこんだ。原因不明のためひとり病室に隔離され、涙する毎日。だけど…いつの日か自力で病因をつきとめようと決心した少女はついに宇宙船に生まれ変わった! 名作『歌う船』に続く人気シリーズ、登場。

【内容と感想】
 歌う船シリーズの第2弾。独立した話になっているのでこれだけを読んでも問題なく楽しめる。個人的にはシリーズの中でこれが一番好き。

 遺跡発掘に携わる両親の元で暮らす7歳のヒュパティア(ティア)は、聡明な女の子。賢く忍耐力があり自分の意見をしっかり持った彼女は、他の大人たちから馬鹿げた子供扱いされるのを嫌がる、そんな早熟な少女だった。ある日彼女は、与えられていた発掘現場から謎の文明サロモン・キルデス文明の遺跡を発掘する。自分の見つけたものが何であるか心得ていた彼女は、適切な処置をして両親に報告する。重大な発見に世間は色めき立ち両親は忙しくなってしまうが、そんな折ティアは身体に痺れを感じ始めた。両親を心配させたくなくて彼女は一人医療AIに相談するが、的外れな診療に時期を逃し、両親が気付いた時にはすでに全身に麻痺が広がっていた。

 両親の前では明るくふるまい、一人になってから親友の青いテディべアに話しかけ人知れず泣くティア。 とっても健気で泣かされる。
 しばらくするとしぼりだすように、「でもね、ママやパパはとっ、とっても悲しんでいるのよ。ママ達のために…元気なふりしなきゃね…ほ、ほんとに大変なの。でもね、泣いたりしたら、もっと悲しくなる…でしょ。きっと、これで…いいのよね?このほうが、いい。みんなの、ために…」(本文より)
 この様子をモニターした彼女の担当の高名な医師ケニーは心を動かされ、シェル・パーソン・プログラムの適用を受けられるよう働きかける。これは基本的には1歳以下の乳児にしか適用されないプログラムで、7歳での適用は異例の扱いだった。ケニーも病気で車椅子から離れられない身体で、ティアの辛さがよくわかるのだった。

 アカデミーを優秀な成績で卒業したティアは、考古学部門の特使船として働き始める。ブローンに選んだアレックスは、彼女と同様に考古学に興味を持ち、転々と移動していた謎の文明、サロモン・キルデス文明の謎を解き明かしたいと願っていた。何よりアレックスには、彼女の大切にしているテディベアに敬意を払うだけの配慮があった。ティアは彼女自身を襲った病原菌がこの遺跡と関係あるものと見当を付け、自分の悲劇を繰り返さないためにも、アレックスと二人でこの文明の追跡調査を密かに夢見る。

 前回のヘルヴァが音楽に関係した仕事が主だったのに対し、今回は遺跡の発掘にまつわる事件が主な仕事となっていて、ブレイン・シップの仕事の幅を広げている。また未知の病気が絡むものも多く、医師であり親友でもあるケニーが専門家として活躍する。またティアは投資に関しても能力を発揮し、適切な会社に投資することによって早々に借金を返済していく。それだけでなく自分の欲しい物を造れる会社に投資して作らせ、悩めるアレックスと夢を叶えるのである。

 幼いティアもいじらしいし、諦めず夢に向かって幸せをつかんでいくのがいい。子供の頃から大切にしている青いテディベアも、いい小道具となっている。

 さあ、いいこと、未知なる宇宙、準備万端整ったわよ!(本文より)


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