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旧あとりの本棚 〜 SFブックレヴュー 〜
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著者:ニコラ・グリフィス 出版:早川書房 [SF] bk1
【あらすじ】(カバーより) 近未来のイギリス。怪我をした裸のローアは、激しい雨の中で道端に倒れていた。微生物による汚水処理技術で富を築いた大富豪一家の末娘として生まれた彼女は、誘拐犯を殺して逃げてきたのだ。だが、身代金を払わなかった家族のもとにも、警察にも行けない。ローアは女性ハッカーのスパナーに助けられ、新たな生活をはじめるが…ローアの波瀾に満ちた人生を描いて、SFに新たな息吹をもたらしたネビュラ賞受賞作。
【内容と感想】 悪くはないが少しくせのある作品。舞台設定が近未来で、物語の核となる下水処理システムや、PIDAという手に埋め込まれた個人認証システムなどのほかは、あまりSFといった感じがない。主人公ローアは下水処理システムの独占特許で巨額の富をなした大富豪の一族の娘。誘拐をきっかけにヴァン・デ・エスト家の名を捨て犯罪に手を染めて暮らしていた彼女が、新しいIDを手に入れ、自分自身を確立していく話。
ストーリーは、一人称で書かれている現在と、三人称で書かれている過去(子供時代と誘拐後ハッカーと暮らす3年間)が交互に進められ、次第にローアの生い立ちが明らかになっていく。大富豪の一員として金銭的には何不自由なく暮らしていたが、両親は不仲で子供達を自分の側につけようと取り合っている。長女グレタ、双子の次女ステラと長男トク、末っ子のローアという姉妹構成だが、親が身勝手に振り回す愛情でグレタとステラは大きく傷ついていた。子供だったローアは家庭内で何が起こっているのかよくわからない。ステラが自殺した矢先、ローアは誘拐される。身代金は一族にとっては子供でも動かせる額だったが支払ってもらえず、誘拐犯に撮られた辱めを受けている映像をネットニュースに流される。命からがら逃げ出したものの、その映像を恥じ、また一族からも見捨てられたと感じたローアは、身分を隠してアンダーグラウンドで生きてゆく。
逃げ出したとき助けられたハッカーのスパナーの元で、彼女の仕事を手伝いながら退廃的な生活が始まる。スパナーは違法な仕事をしており、金に困って次第に汚いやり方がエスカレートして行く。知り合いをはめ、売春し、恐喝し、転落して行く。ローアはスパナーを愛しながらもその生活に未来が無いことに気付き、まともな仕事に就く準備をはじめる。
一族の一員として下水処理システムに深い知識があったローアは、死者のIDを手に入れ成りすまし、下水処理場の労働者として危険で過酷な仕事に就く。今まで経営者側の立場からこの下水処理のシステムを捕らえていたローアだったが、逆転した立場に身を置き、自分達の一族が市場を独占するために行った処置が無能な経営者の利潤追求の元でどんな危険なものとなっているかを目の当たりにする。彼女の一族の独占特許により下層階級に色々な問題が引き起こされていた。処理場での事故をきっかけに、彼女の家庭の秘密、誘拐の秘密が明らかになり、ローアは信頼できる新しい恋人の助けを得て、一族の行いが正しい方向へ行くよう解決をはかり始める。
謎が次第に明らかになっていく構成の仕方はうまく、つぎはぎで語られる現在と過去が最後で見事にまとまって解き明かされている。下水処理場での事故も緊迫感がありなかなか読ませる。ローアが人生を見据え、一族から自立して自らの位置を確立していくのに対し、スパナーの成長の無さが対比的だ。上流階級の闇の世界とアンダーグラウンドの闇の世界が描かれていて退廃的だ。もっとも主人公はそれを否定する生き方を模索しているのだけれど。作者がレズビアンのせいか、出てくるのが必然性無くレズビアンばかりで、少し辟易する。別に主人公はノーマルでも良かったのでは。
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