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2001年10月05日(金)
□『フィネガンズ・ウェイク』

著者:ジェイムズ・ジョイス  訳者:柳瀬尚紀  装丁画:山本容子  出版:河井書房  [EX]  bk1bk1

【内容と感想】
 書く方も書く方だし訳す方も訳す方だし読む方も読む方だ!というあまりにも読めなかった小説を。読めないので評価不能(笑)。

 これがどれだけ読めないかというと、本文はこんな感じなのである。
 川走(せんそう)、イブとアダム礼杯亭(れいはいてい)を過ぎ、く寝る(くねる)岸辺から輪ん曲湾(わんきょくわん)へ、今も度失せぬ(こんもどうせぬ)巡り路(めぐりみち)を媚行(びこう)し、巡り戻る(めぐりもどる)は栄地四囲委蛇(えいちしいいい)たるホウス城とその周円。
 サー・トリストラム、かの恋の伶人が、短潮(たんちょう)の海(うみ)を超え、ノース・アルモリカからこちらヨーロッパ・マイナーの凹(おう)ぎす地峡へ遅れ早せ(おくればやせ)ながら孤軍筆戦(こぐんひっせん)せんと、ふた旅(ふたたび)やってきたのは、もうとうに、まだまだだった。(本文冒頭より)
 実際には( )で括った部分は主なルビを抜き出して振ったもので、本当は漢字に全部ルビが振られている。そしてこの調子が全編に渡って延々と続いているのである。原作ではI〜IVまであり、日本語訳ではIとII、IIIとIVの二巻になっている。二冊分これを読むのはさすがに辛い(いや、一冊でも辛いけど)。

 原作もかなり技巧を凝らした言葉遊びのような小説らしく、超難解らしい。しかしこれを訳された柳瀬さんの日本語訳もある意味では原作以上にすごく、難解な原作の特徴をうまく活かしていて非常に優れているようだ。例えば『川走』は原作では『riverrun』で、音により『戦争』『船窓』等、いろいろな意味が連想できる。『今も度失せぬ(こんもどうせぬ)』は原作では『commodius』という英語の読み方を活かしたものらしい。また、「ま」と「よ」の中間のような創作文字まで出て来る。「よ」の横線の下にもう一本横線が突き抜けて書かれている文字である。

 原作で実験されたものが、うまく日本語独特の表記方法に変換を試みられている。もしかしたら漢字という表意文字を使える日本語の方が表現豊かに意味を込められる部分もあるかもしれない。大変だった翻訳のことは訳者の柳瀬さんの『フィネガン辛航紀』bk1 に書かれている。こちらはフィネガンズ・ウェイクを読むための解説本のようである。

 しかしあまりにも難解すぎて、自分が今どこを読んでいるのかわからなくなってしまって挫折(笑)。そもそもどこまでが主語で、どこからが述語なのかさえ、気合を入れていないとわからなくなるのだ。いやー、難解だとはわかっていたんだけれど、ちょっと読んでみたかったのだ(笑)。山本容子さんの装丁の銅版画もよかったしね。それでも最初の巻の1/3くらいは読み、次の巻も一応購入はしてあったりする。肝心のあらすじは、、、ダブリンを流れる川を舞台に、登場人物達が揉めていたようだった(笑)。この小説を読み解くことはもっと頭のいい人にお任せ。


 で、これだけだとあんまりなので、大日本印刷さんのここのサイトを見ることをお勧め。ルビが振られているものが載っていて、本の感じもよくわかる。小説の冒頭部分がフラッシュアニメーションの挿し絵で表現してあって、非常にこの小説をよく現していると思う。本当は小説を切り刻んで万華鏡の中に入れて再構成した、コラージュのような小説なんだと思う。ちゃんと読めばね。リンク禁止のようなのでURLの紹介だけ。

http://www.honco.net/japanese/04/page4-j.html



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