moonshine  エミ




2002年08月18日(日)  夏やすみ恒例、読書感想文

 今日で、私の夏休みはおしまい。
 あーあ。「毎日が夏休み」状態の連れを見てると、憎らしくなるのはこういうときだ。働かざる者食うべからず! これが資本主義の原則だ。早く大人になってくれ。

 さて、夏休みの宿題と言えば、読書感想文ですね。ここで私が夏休みの1週間に読んだ本を、小学生の感想文ふうに、一挙紹介。


長いようで短かった夏やすみ、わたしはいっぱい本を読みました。
 まずは氷室冴子「銀の海 金の大地」シリーズ
全部で11冊もあったのですが、おもしろくてあっというまに読んでしまいました。高校生の頃に買っていて、今でも一年に一回くらい、夢中になって読みかえします。
 卑弥呼の時代と大和朝廷ができる間の、「幻の4−5世紀」といわれる時代の日本が舞台です。信仰する神さまやくらしの習慣が、部族によって違います。たたかいもあります。王子さまやお姫さまもいれば、奴婢もいる時代です。けれど、みんな雄雄しく、誇り高く生きるさまが描かれています。わたしは、人間の尊厳、ということについて、ちょっと考えてしまいました。そして、作家さんの想像力って、すごいなあと思いました。

 それから、花村萬月のエッセイが文庫で2冊、今月発売されたので読みました。「萬月療法」と「あとひき萬月辞典」です。
 わたしがこの人のエッセイを好きなのは、あの文、この文すべてから、羞恥心と自己批判のにおいが立ちのぼっているところです。この人の小説はエロかったり、グロかったり、ナルシスティックなところもいっぱいありますが、この人はちゃあんと、自分のナルシストさをわかっていて、それを恥じているということがエッセイを読むと再確認できます。
 特に心に残ったのは、「あとひき萬月辞典」の中で小説家になりたいという人たちに向かって、
あなたの味わった人生の痛み苦しみは、他人にはまったく通じない。関係ねえや、の一言でおしまい。あなたにも私にも自己愛があり、自尊心がある。だが、それは他人にとって、じつに鬱陶しいものなのだ。自己憐憫。いやな言葉でしょう?
 と書いてあったところです。わたしは、自分が今まで書いてきた文章の数々を、ちらっと振り返ってみました。そうしたら、恥ずかしい気持ちになりました。わたしは抑制されたもののうつくしさを、今までもじゅうぶん愛してきたつもりでした。それでも、自己愛を抑制するのは、やっぱり難しいです。

 藤沢周平「橋ものがたり」。これは、わたしがいちいち書かなくても知っている人はみんな知っている(あたりまえです。)とおり、すばらしい作品です。短編小説集で、ぜんぶ、「橋」が出てきます。 
 江戸時代の橋は、今でいう駅みたいなもので、たくさんの人びとが待ち合わせたり、すれ違ったりします。その橋をキーポイントに、人生の喜びや哀しみ、出会いや別れを、あざやかに切り取って描いている小説集です。
 藤沢さんの本を読むと、そんなことは直接書かれていないんですけれども、いつも「しあわせって何だろう」とわたしは思ってしまいます。何か大きなものを手に入れられる人生だけにしあわせがあるわけじゃなく、日本人の多くが貧しかった頃の、ささやかな日々に充足するしあわせ、その心の豊かさを思います。
 それから、わたしはこの文庫本の井上ひさしさんの解説が大好きです。この本はずっと前からいつか買おう、買おうと思ってなかなか買わずにきていたのですが、この解説はもう何度も、買う前から本屋さんで立ち読みしていたのでした。

 吉田修一「最後の息子」。新芥川賞作家です。はじめて、この人の本を読みました。たまたま、文庫で新刊が出ていたものですから。わたしは単行本はあんまり買いません。単行本のほうが早く新刊を読めますが、それを始めると私のお財布も本棚も時間もめちゃくちゃになってしまいます。買わないのは、自分へのいましめです。
 それで、この本はというと、「すすすす、すごい!」という感じです。さすがです。現代的でしゃれているのに、ちっともいやみがありません。それでいて、きちんと純文学の風格があります。
 3つの小説が入っていて、どれもわたしは泣きそうになりながら読みました。哀しい気持ち、けれど文学たるものこういうことを描いてほしい。しかも、抑えた乾いた筆致でえがいてほしい。お涙頂戴ふうには書かないで欲しい。わたしはいつも、エラそうにもそんなことを思っているのですが、まさにこの本はそうでした。さすがです、芥川賞作家。わたしはこの1−2年で、芥川龍之介と芥川賞をものすごく好きになったのですが、この本を読んでまたその思いを新たにしました。
 3つのうち2つは、現代の長崎が舞台です。この作家は長崎出身だということです。わたしも長崎には時々行きます。好きな町です。方言で書かれていて、とてもうれしかったです。付け加えると、この本は、表紙の絵も、すっごくかっこいいです。

 ジョーエレン・ディミトリアス「この人はなぜ自分の話ばかりするのか 応用編」。けっこう、はやっている本です。
 わたしはこういうハウツーものとか、直球!自己啓発モノはあんまり読まないのですが、たまに買いたくなります。こういう本には、もちろん正しいことが書いてあります。でも、こういう本ばっかり読んでる人とは、あんまりお友だちになれそうにありません。
 だからといって、こういう本の存在を頭ッから否定する人間にもなりたくありません。売れていて、読むと実際おもしろいです。なにごとも、バランスが大切です。

 群ようこ「別人 群ようこのできるまで」。読んだことなくても、群ようこ、という人の名前は知っている人が多いでしょう。わたしは、かなり前に3冊くらい読んで、それ程のめりこまずに、ずいぶん時が経っていました。
 そうして、今年に入って椎名誠の本を読んで、椎名誠が20年もやってる「本の雑誌社」のはじめての社員が群ようこで、その昔、彼女のペンネームを社長の目黒孝二がつけた、ということを知りました。
 そういえば、わたしはかなり昔に、「本の雑誌社」から出た本を持っていて、「おもしろい出版社だなあ」と思っていましたが、その編集長が超・有名な椎名誠だということも、今年になって彼の本を読むまで知らなかったのでした。世の中には、まだわたしは知らないけれども、つながっていることがたくさんあります。
 このエッセイは、いくつもの会社に勤めた群ようこさんのOL時代と、「本の雑誌」という雑誌に出会ってそこで働くようになって、作家として独立していくまでの自伝的なものです。軽い読みごこちですが、なかなかヘビーな年月だったはずです。こういうことを、カラッと笑えるように書くのが、この人のいいところなんだろうなあ、と思います。
 そして、これを読んで再び、椎名誠「本の雑誌血風録」を読み返したわたしでした。

 ほんとうは、夏やすみに見た映画やビデオ、買ったCDのことも書こうと思っていたのですが、長くなってしまったので、この作文はこれで終わりにして、また明日かあさってくらいに書こうと思います。
 なんといっても、明日からは学校です。あ、まちがえた、会社です。
 明日の準備をして、また規則ただしい生活に戻れるように、早く寝ようと思います。楽しい夏やすみでした。明日からも、がんばろうと思います。おわり。  
 
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