500文字のスポーツコラム(平日更新)
密かにスポーツライターを目指す「でんちゅ」の500字コラムです。

2002年09月13日(金) 貴乃花の心に巣食う「恐れ」

 大相撲秋場所5日目(12日)の取り組みで、横綱・貴乃花が平幕・琴龍の肩透かしに敗れ、3勝2敗となった。前日、元大関・雅山相手に強さを見せつけただけに敗戦を意外視する声も多いが、予測できた事態とも言える。
 右膝は、おそらくまだ万全ではない。おまけに稽古が不十分で、動きの中での力の入れ具合に不安を抱えているはずだ。前に出ている時は自分のペースで膝に力を送ることができるからまだいい。しかし、ひとたび相手に主導権が移ると、この不安感が命取りになる。12日の取り組みでは、立会いでまわしがとれず、突き合いの中で引いて受身にならざるを得なくなった。こうなると相手の動きに対応しながら膝に力を入れねばならない。引きながら左に回った際、ほんの少し右膝が内側に入っただけでバランスを保つ動作を中断し、右足を伸ばしたまま左肩から土俵に突っ込んだ姿は、彼の心に巣食う「恐れ」がいまだ根深い事を物語っている。
 今後、立会いで変化されたり引かれたりすると対処できないのではないか。最悪の場合、故障を再発させたりはしないか。私の危惧は募る。


横審の言い分、貴乃花の判断(9/13)

 前述したように、12日の貴乃花の敗戦は単に「相撲勘」が戻っていないことが原因ではなく、完調とは程遠い体調とそこからくる抗し難い不安感からのものだと私は思う。しかし、こんな状態でも横綱である彼は土俵に立たないわけにはいかない。
 場所前の稽古総見で申し合いをせず四股を踏んだだけだった時、横綱審議会委員長から酷評された。言う事はわからなくもない。しかし、貴乃花にも生活がある。今後の人生もある。もし今ムリをして再び壊れれば、普通に歩くのさえ困難になりかねない状況で、少しでもリスクを減らしたいと考えるのは当然で、稽古総見で土俵に立たなかった彼の判断は全く正しかったと思う。例えば件の委員長が前立腺癌で手術した時、傷口がくっ付いていないのに現場復帰せよと言われてできるだろうか。2年かかると言われた完治を待たず7場所休場で本場所の土俵に上がっている貴乃花は、今それを現実に行なっている。その事自体凄い事だと私は思う。


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