空白の日を覚えている。 まるで何もなかったような真っ白な日。 色は透明。風は凪。空は…きっと晴れ。 当日は断片的に頭をよぎる。見慣れた誰かのゆがんだ顔と 薄れた記憶のその人の伏せた瞳。 自分はといえば何かを待つように何かに耐えるようにジッとそこに 佇んで。そしてどん欲で平凡で健康な自分を恨んだ。 心と体は案外別々の生き物で。どんなに辛いと思っていても おなかは空くし眠くもなる。それを罪だと思ってしまえる程に 子供で、その罪を許せない程潔癖だったあの頃。 どうしたって涙が止まらなくなる。 それは大切な人との別れのため。それは人間として当たり前に 存在してる自分を責めるため。こんなに悲しいのにと唇をかんだ。 今はそれが当然の事だしだからこそ生きているんだと 思えるけど、同じ日を迎えれば変わらず心は悲鳴を上げる。 決して慣れる事のない痛み。空を見上げて手を合わせて 自慢出来る事は何一つない。懺悔をして許しを請いくじけぬ心を 誓うだけで精一杯。そうすれば馬鹿みたいにまた泣けて来て。 自分はあの頃から何一つ変わってない。子供のままだ。 見上げる空が高い。それはあの頃に足踏みをしてたせい。 たった一つだけの笑ってる写真に何度も口を寄せ。 亡くした事じゃなくそばにいられた事に感謝をする。 同じ後悔を繰り返すかもしれないけど、もう前に進むしかない。 早く早くたどり着いて報告出来るように。後悔は少な目に。 永遠じゃない命をあの日去ったあの人は教えてくれた。 忘れられない日がある。空白の時。今はもうそれすらも日々の果て。
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