| 2002年08月20日(火) |
まだあげそめし前髪の |
その日はいつものように晴れていた。 それは真夏の出来事にふさわしく、いつだって空は晴れ渡り 雲は静かに流れ、風はさらさらとそよいでる。 見上げた空はあの日へと続いてる。あの場所へと続いてる。 大きな入道雲はまるであの日のキノコ雲。ちょっとした既視感。 今、知らない過去を思い出している。経験した事のない過去…。 でもそれは果てしない痛みをこの胸に与えてくる。 ラジオから流れて来るその声に…誰もが何も出来ずにいる。 やけに蝉の声がうるさくて…同じ日本のとても暑い夏。 でもその年のその日の暑さはきっと誰も知らない。 聞き間違いかと思う程、それは突然で無遠慮に耳を刺激する。 誰もが思う。遠い国のあの人の事。せめてもう一日早ければ。 せめてもう一年早ければ…あの人は行かなかったかもしれない。 あの人は生きていたかもしれない。 見上げる空は高く青く、あの人の所へと繋がってるはずなのに。 その声は聞こえない。その姿はもう見えない。 彼は、爆撃を受けているであろう祖国を思い… 彼女は、戦場となってしまった見知らぬ大地を思い… きっと同時に叫んだはず。生き延びろ…! 遠い異国で誰にも看取られる事なく逝ったあの人。 まだ恋の始まりだったあの人。夢の途中だったあの人。 たくさんの命と夢と愛と悲しみと痛みと恐怖、それと涙。 そこに全てをおいてきてしまった悲しい国。 これから何をすべきかわからぬまま、それでもこの国は未来へと 歩き出した。たくさんの命と引き替えに。たくさんの宝と引き替えに。 その後は今だ続く山積みの問題ばっかりで。 記憶とはやがて風化して行くものだけど、現実に起った過去の 記憶でさえも都合よく風化されてしまったみたい。 死んで神にされてもどうにもなるものでもなし。 本当の問題はそんな所にはなく。事実に目を向ける人々ばかりが 悲しい瞳をしてる。乗り越えて行かなければいけない。本当の意味で。 乗り越えるとは、繰り返さない事。事実を認める事。 心からの涙を流し罪を償う事。慈悲の心で許す事。許す事に よって新しい未来を見据える事。そして未来に祈りを…。 突き抜けるような青空と遠い昔の悲しい記憶。 忘れないと誓って、ちょっとだけ泣いた。 その日は愛しいこの国の終戦記念日、だった。
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