衛澤のどーでもよさげ。
2005年08月07日(日) よかったと思う……よ?

映画を観に行ってきました。今年に入ってから五本めの映画です。今年はよく観に行っていますね。昨夜レイトショーで観たのは「亡国のイージス」です。
……ああ、はい。踊らされているなーってのは、自分で判っていますから放っておいてください。

ツッコミどころは多くてナニがアレでしたが、冒頭のイージス艦「いそかぜ」甲板から艦内への映像だけでぼくは満足しました。ここだけでレイトショー料金一二〇〇円はペイ。艦船ヲタクだもーん(開き直り)。あとはどんなにナニがアレでも文句言わないや、という気分になれました。
でもパンフレット一〇〇〇円は高いと思います。巻末の台本は要らないからも少しお安くしてほしかったところです。横開き(横長の判型)もやめてほしかったです。書棚に並べるときに困るでしょう。

キャストが豪華でねえ。特に、寺尾聡さん、真田広之さん、中井貴一さんの三人をひとつの画面で見られるなんて贅沢ざます(ざます?)。「いそかぜ」の艦橋でこの三人が並んでいる場面でうっとりしてしまいました。恰好いいよ……!
また、いい芝居をしなさるのですよ、みなさん。
役者も豪華、自衛隊装備も豪華、セットも豪華。物語の整合性だとか、そういうものを求めなければ劇場に観に行って損はないのではないかと思います。

以下、ネタバレを含む内容ですのであぶり出しにしておきます。詳細お知りになりたくない方はあぶり出さないように御注意ください。

この作品に限らず、ぼくが今年に入ってから観た映画何れにも言えるのですが、内容が尺に合っていなくて、原作のダイジェストのような仕上がりになってしまっているのです。だから、細かいことが判らなくて各キャラクタの人物像が平たくなっていて、そのために物語の厚みを感じられなくなってしまっています。

たとえば、物語のキイとなる如月行がどんな少年時代を過ごしてDAIS工作員としてどのような訓練を受けてきたのかが劇中では描かれていません。そのせいで如月が優秀な工作員であることが観客には判らず、そうするとDAISが遂行しようとしている任務がどれほどの重要性と難易度を伴ったものなのかが判らず、つまりは物語の要である事件を把握しづらい状態のままで映画は進んでいきます。

そもそも「DAIS」とは何か、ということすらこの映画は教えてくれないのです。これでは警察庁と防衛庁(DAIS)との対立の構図も判らないし、そうすると佐藤浩市さん演ずる渥美大輔が何故艦艇から遠く離れた場所で悪戦苦闘を強いられているのかも判らない。制服組の混乱が描かれる意味がなくなってしまう。おそらく劇中で一番大切な台詞を口にしているのは渥美なのに。
原作を読んでいない人には難しい御話になっています。原作を読んでいない人など最初から相手にしていないということなのでしょうか。

また、中井貴一さん演ずるホ・ヨンファが溝口哲也三等海佐の身分と名を騙り仲間とともにFTG(海上訓練指導隊)を装って「いそかぜ」に乗艦したのだということも、某国工作員だからこそ母国語以外の言葉も流暢に操れるということも、「GUSOH」なる特殊兵器を入手し一部の自衛官を煽って叛乱を促したのだということも、ジョンヒとの関係も、すべて描写されていなくて、それがとても勿体ない。
内に潜む理知と狂気の二律背反を中井さんが非常に巧みに表現しておられて、キャラクタを立てるに充分な描写があればもっと迫力が出たのだろうにな、と残念でなりません。

ぼくがこれ等の人物について知っているのは、映画を観る前に原作上下巻のうち下巻の途中までを読んでいたからで、原作もパンフレットも読まずに映画に当たった人は劇中の男たちが何ゆえにそれぞれに戦っているのかが判らなくてつまらなかったのではないかととても心配です。
こういった物語の構造の部分が気にならなくて、かつ、艦船や格闘術が好きなら観ていて愉しい映画だと思うのですけどね。

幹部を残して曹士以下を総員離艦させた「いそかぜ」の中で、真田広之さん演ずる仙石恒史海曹長はヨンファ一党と戦い、満身創痍になりながらも指揮権を取り戻し、「いそかぜ」からGUSOHなる化学兵器が搭載されたミサイルが東京に撃ち込まれる惨事を防ぎます。
この真田さんが恰好いいのです。流石JAC出身、基礎ができているので殺陣も安心して見ていられます。打ち合う(撃ち合う)場面だけでなく、攻撃されて転倒する姿も負傷して足を引き摺りながら移動する姿も見応えがあります。
真田さんの芝居が巧すぎて、ともに行動する如月役の勝地涼くんがかすんでしまっていて、ちょっと可哀想なくらい。

「いそかぜ」艦内での白兵戦が何度か見られるのですが、これが「戦国自衛隊1549」よりも本格的な近接戦闘なのですよ。
関節の極め方だとか逆の取り方、小物(ナイフや銃などの武器)の使い方が結構マニアックです。終盤の仙石VSドンチョル戦では何が起こったのか判らない人の方が多いのでは、というくらいのアクロバティックな戦術が取られていて、うっかりまばたきすると見逃してしまうくらい素早く決着してしまいます。うひー恰好いい……けど、見る人を限定しているな、とも思ったり。

最後にはヨンファはミサイルからGUSOHを抜き取り、手に持って露天甲板に向かいます。何故手に持って甲板に出たのか判らないけど。それを追う仙石がマストに上りその先で追い詰めたヨンファと対峙……護衛艦のマストの上で中井貴一さんと真田広之さんが格闘するのですよ、この画だけでどきどきしませんか! そんなのはぼくだけですか! とにかくゴージャス過ぎです!

この甲板上でのヨンファのターミネーター振りが素敵です。倒されても起き上がってくる。この怖さは中井貴一さんでなければ出せなかっただろうな、と思うほど。「プルメリアの伝説」がうそのよう(そんな昔の話を)。
このシーケンスで仙石は何度かGUSOHを抱えたヨンファを背中から銃撃するのだけど、そんなに近距離から撃ったら弾が躯幹部を貫通してGUSOHの容器に傷をつけてしまうぞ、というツッコミはしてはいけないのね。
でも、背中を撃たれたはずのヨンファがしっかり胸から出血していたし、やっぱり貫通したんじゃないですか。GUSOHを東京湾に撒き散らす一番の危険はヨンファではなく仙石だった、ということに。

さて、ヨンファを倒した仙石はGUSOHを確保し、その旨を衛星を通じて手旗信号でDAISに伝えるのだけど。
映画の構成を見てみると、仙石が「DAIS」という組織の存在をどうやって知ったのか、「GUSOH」という兵器の名を何故知っているのか、政府が航空自衛隊F2支援戦闘機を使って「いそかぜ」を撃沈しようとしていたことをどうして知っていて手旗を使ってまで伝達しようとしたのかが描写されていないのですよ。だから、一見「めでたしめでたし」に見えるけれど何だかすっきりしないのです。

更には「いそかぜ」は「舵が利かなくなって暴走」してしまい、その行手には火力発電所が……せっかくGUSOHを確保してもそこで爆発でも起こせばGUSOHは首都圏に撒かれることになってしまう。さあどうする!という展開に……って、舵が利かなくても機関を緊急停止させれば惰性がなくなったところで艦は止まるんじゃないの? 駄目なほど湾の奥に入り込んでいたっけ?

どうやって止まったかというと「偶然」としか言いようがないのですよ。宮津副長(寺尾聡さん)が、如月が仕掛けた爆弾の場所を知って(これもどうやって知ったのかが判らない……如月にカポック(救命胴衣)を着せたときにでも聞き出したのか?)、爆弾を銃撃(起爆装置を銃で撃ったからと言って爆発するのかという疑問は棚上げ)して艦を爆破しなかったら止まらなかった訳で。
それが仙石が海上自衛隊の回転翼機に救助された後だったから何とか「よかったね」と言えなくもありませんが、仙石と一緒にGUSOHが「いそかぜ」から引き揚げられたという描写もなかったので「爆撃されても同じじゃないか」という気持ちは拭えず。

仙石は「いそかぜ」を守ろうと一旦離艦しておきながら再度戻って戦ったのですが、結局「いそかぜ」は爆発炎上沈没してしまいます。
しかし、その次の場面では仙石は登舷礼(入出港の際に乗務員が舷側に並んで艦外の人に敬意を払う礼式)に並んでいて……新しい艦に配属されて出港するところだということが、登舷礼を知らない人にも判るのかが心細いところ。
などと思っていたらエンドロールが!
お……おもしろかったけど、うーん?という感じです。


パンフレットを見てみると、この作品は随分派手にメディアミックスしているようです。何と「別冊フ○ンド」にまで連載が! こんなおっさんばっかり(失礼)出てくる無骨な御話が少女漫画になるとは時代が変わったのか……と思ったら、如月を主人公にしたアナザーストーリイだそうで。さぞやオトメ好みにラヴ要素が強い御話なのでしょうね。別フレだもんな。がんばるな講○社。
それから、あの「横須賀海軍カレー」の亡国のイージス版、というのもあります。ここまで便乗商……んがぐぐ。

そうそう。
序盤で如月たちが乱闘騒ぎを起こした街は「いそかぜ」が立ち寄った由良分遣隊(和歌山県の中程にある海上自衛隊の小さな基地)周辺ということになっているのですが、如月たちを捕まえた警察官がきれいな和歌山弁を喋っていたので吃驚しました。映画だとかドラマだとかに出てくる和歌山弁は大抵大阪弁をもう少し訛らせただけという感じになっているものだし、この場面は和歌山である必然性もそんなになかったので。


【今日のどうする】
ロー○ンの月見とろろそばが好きです。でも冷えた食べものは苦手です。でもでも冷蔵庫の外に出しておくと傷んでしまいます。


エンピツユニオン


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