エスムラネット・日記

2003年10月03日(金) 青春の旅路

 昼過ぎに家を出て、国立へ行った。
 私は、高校〜大学時代を国立で過ごした。国立はいわば、私の青春の地である。高級スーパー「紀伊国屋」があり、百恵御殿のある街。そう。私は、ハイソなオカマなのである。
 今回、国立へ行った最大の目的は、大学のゼミの先生に「会社辞めましたッ」と報告することにあったのだが(大学は、8月頭から9月末まで夏休み)、研究室は真っ暗だった。先生はどうやらお休みらしい。がっかりである。
 仕方がないので、まずは大学内を散歩した。陸上部OBでもないのにグラウンドで走る若者を眺めたり、夏休みにアルバイトしたことのある大学図書館の入口で「知ってる職員さんいないかなァ。図書館のバイト、またさせてくれないかなァ(無理)」とウロウロしたりしていた(学生証がないので、中に入れなかった)私は、かなり怪しい人間に見えたのではないかと思う。
 大学から移動する際、学生の一人が、その友人と「留年決まっちったァ」「エーッ、夏決まり?」といった会話を交わしていたのが印象的だった。
 そういえば、最近はとんと見なくなったが、入社して5年くらいまでは時々、「卒業できない」夢を見た。夢の中で私は、すでに会社勤めを始めているのだが、何故か大学にも籍を置いている。しかし普段は会社に通っているため、出席も足りなければ試験情報もレポート情報も全くわからない。ああ、どうしよう、という夢である。不条理なことこの上もない。
 大学を出て、「大学通り」をひたすら南下し、高校へ。高校を訪れるのは、実に10年ぶりである。しばらく見ない間に校舎は建て直され、すっかり立派になっていたが、立派すぎて、ちょっと淋しくなった。
 学校は恐らく「関係者以外立ち入り禁止」だと思うが、構わず校舎内へ入る。何人かの生徒や職員とすれ違ったが、全く見咎められなかった。よほど高校生と同化していたのであろう(カン違い)。「2年前、日大豊山高校の学園祭で女装ショウをやった後、スッピンで校舎内をウロウロしていて、高校生に『あの人、さっきの女装の人だよね?何年何組?』と言われた」というロクでもない思い出が、ふと頭をよぎった。
 サッカー部の練習風景などを眺めてから(そんなのばっかり)高校を後にし、谷保駅へ向かう。大学通りの向かい側に、バカでかいマンションを発見。景観をめぐって裁判沙汰になった、いわくつきのマンションである。初めて見たのだが、確かにひどい。反対されて当然である。「繊細さを感じさせない巨大なもの」というのは、とても人をいらだたせるものだなあ、と思った。先日も、ワイドショーをボーッと見ていたら(ダメ人間まっしぐらである)、大阪市大正区の「巨大マンションによる日照妨害問題」をやっていた。どんなに住民が反対しても、地方自治体が許可を出し、建設が始まってしまったら、ハイそれまでよ、である。ひどい話だが、これからもっと、こういう争いは増えていくのであろう。
 そこから谷保までの道は、意外と変化がなかった。何軒か店は変わっていたが、なくなっていたのはいずれも「まあ、潰れても仕方ないなァ」と思われる所ばかりであった。高校3年の夏休み、文化祭の準備の合間に数人でご飯を食べた中華料理屋さんは健在で、懐かしさに胸がちょっと痛くなった。貸本屋さんは相変わらず、「BOOK LENTAL」と書かれた看板を、堂々と掲げていた。綴りの間違いを、誰も指摘しないのだろうか。
 ちなみに、書店や銀行、おしゃれな喫茶店などが軒を連ねる国立駅と違って、谷保駅前にはパチンコ屋や信用金庫、さびれた喫茶店などが軒を連ねている。これを俗に「国立の南北問題」というらしい。誰が問題にしているのかは、よくわからない。谷保駅前には「紀ノ国屋」という、恐らく高級スーパー「紀伊国屋」とは何の資本関係もない菓子屋があるのだが、今日は全品半額セールだったらしく、ジジババから男子高校生まで、幅広い世代の人たちが長蛇の列をなしていた。そういえば昔、「百恵さんがキノクニヤで買い物をしている写真」が写真週刊誌に載っていたが、あれはどっちのキノクニヤだったのだろう。
 谷保から南武線で分倍河原へ行き、分倍河原から立川へ行く。単に昔を懐かしむためだけに、時間的にも運賃的にもムダとしかいいようのない動きをしてしまった。私が高校生だった頃、「谷保と分倍河原の間に、小室哲哉の実家が見える」とずいぶん話題になったものだが、私には今もって、どの建物がそれなのかわからない。
 いい加減疲れていたのに、立川でも下車してしまった。八王子と立川は、何だかよく似ていて、時々記憶がごっちゃになる。それにしても、最近の郊外のJRのターミナル駅の駅前の改造っぷりときたらどうだろう(さて、この文章の中に「の」はいくつあるでしょう)。ひたすら立体化、である。立川しかり、八王子しかり。さびれ感が何ともいい味を出していた橋本駅でさえ、無残な姿に変わっていた。
 しかし、そんな「近代化」の影響を全く受けていない建物が、立川にはあった。それは立川駅前の「第一デパート」である。以前からこのデパートには、そこはかとない場末ムードが漂っていたのだが、今日、久しぶりに覗いてみたところ、何と言うか、立川近代化によって生じた「負」を全て引き受けたような、すさまじい姿になっていた。かつて一般書店であったオリオン書房には、耽美小説やフィギュア雑誌、戦隊ヒーロー雑誌などが所狭しと並べられ、その同じ階にはフィギュアショップやプロマイド&ポスターショップがあった。こういうのを「ニッチビジネス」というのだろうか。
 その後、立川駅ビル「ルミネ」も覗いてみたのだが、フラリと立ち寄った某ショップで応対してくれた男性店員が色っぽくて、クラクラした。めがねをかけていて、顔の造りは美形……というわけではなく、肌のきめも粗めなのだが(ってうるせえよ)、物腰が柔らかくて声が良い。「つきあうなら、こういう人がいいッ」と私の魂が叫ぶのが聞こえたが(最近、「この人いいな」「自分に合いそうだな」(ずいぶん自分勝手な言い種であるが)と思う人がいると、「魂」が反応する……ような気がする。一方で、どんなに見た目的に好みな人でも、魂が全く反応しないこともある。無駄弾を撃たなくてすむようになった、ということなのかもしれないが、何せ具体的な成果となってあらわれていないので、よくわからない)、特に欲しいものがなかったので、結局何も買わずに店を後にした。こういうのが、私のダメなところである。
 こうして、半日をかけた私の「青春を懐かしむ旅」は終わった。人間、少し時間ができると、ロクなことをしないようである。

●今日の行動
・「エンピツ」利用のため、東京三菱銀行のATMからジャパンネット銀行へ900円を振り込んだ。振込手数料が420円であった。900円の振込みに420円。ありえない金額である。「エンピツ」をやめて無料の(でも少し重くて不便)「デンパンブックス」にしようか、と30秒くらい考えてしまった。銀行間の金のやり取りというのは、そんなにも厄介なものなのだろうか。今の銀行のあり方は、やはりどう考えてもおかしいと思う。こんな阿漕なやり方を続けてたら、いつか金融中心のシステムは転覆するぞ。


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森村明生 [MAIL] [HOMEPAGE]

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