「そういえば温泉出掛けるんですよね?」 整体の先生からそう切り出された。 診察台に上がって思うようにならない右肩をほぐされ、 なんとも言えない痛みに対応していた私は 先生に唸るしかなかった。 初めて結婚前の主人と温泉にでかけたドライブ中 山道を駆け抜けるような速さで運転したものだった。 F1の好きな彼は運転好きも高じて 隣に私を乗せているのも忘れてしまう程 Uカーブが続く山道を攻めた。 元来、車の助手席に乗り 長い時間ドライブするのが慣れていない当時の私は グループで行くと山道前には眠ってしまうタイプなのに デートとなれば早々寝てられない。 頑張って起きたのが災いとなったのだ。 夜中の山道を散々ドライブした挙句 下りのくねったとたん気分が悪くなった。 車を止めてもらい道の端で彼が見えないところで 嘔吐したものの体調がすぐれず 家に着くまで車の中で彼の隣で寝て帰るしかなかった。 あの時乗った車も私達も大分変わってしまったが、 あの時の私の飲めない苦い珈琲の味わいの思い出を 彼は覚えているのだろうか。