何もかも - 2004年04月06日(火) 死んでしまいたいなどとぼんやり考えながら淡々とコピーを取る自分の手もとを見下ろしていたら、見知らぬ少年が真直ぐに私の顔を仰いで尋ねてくる。「コピーって、どうやるんですか?」 小学校高学年くらいだろうか、左手に握り締めた保険証を複写したいらしい。細々と手順を教えてコピーを済ませれば丁寧にお礼を述べられて、随分躾がいいなあと感心しつつ別れる。きっと弟といくつも違わない、あの子にもきっと父親がいて、その存在を病にもぎ取られることなど想像もしないだろう。まだ父親を十分に必要としている年頃だ。…違う、あんなに幼くなくても、母も私も妹たちも必要としている、愛しているなんて言葉を使えば救いようもない程陳腐になるけれど、必要で、大切で、大好きで、かけがえも無い。だからこんな風に世界が終わってしまうような気持ちでいる。入学式に胸ふくらます弟はまだ知らない、父の心臓がもういつ止まってもおかしくないのだという残酷な現実を、誰からも伝えられていない。嘘みたいだ、そうでなければ悪い夢だ、数百キロ離れたこの土地で、当たり前のようにアスファルトの上、目の前が暗い、どこででも生きられると思っているのに、何もかも捨てたい。 -
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