みかんのつぶつぶ
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2002年06月01日(土) 病室の窓辺で

紫陽花が、ひと雨ごとに色濃くなりますね。


気がつけば、そう、もう6月で。
紫陽花が、その大きな花を悟られないようにひっそりと咲いていた。
雨を待って、でも、5月の陽射しは強すぎて。

枇杷の実が、なんともいえない色あいで実のっている。

この時期って、いままで見過ごす景色が多かったなあ、なんて、
改めていかに忙しく過ごしてきたかを再認識したりして。





ある日、病室の窓から下をみると、
中庭にある枇杷の木に、たくさんたくさん実がついているのを見つけた。
すぐ彼に教えてあげたかったけれど、
でも、その窓は、私の首までほどの高い位置だったから、
彼を立たせるのは無理で、ひとり、いつも見下ろしていた。

枇杷の木の下には、一面にどくだみの白い花が咲いていて。
私は、この時期に一枚の絵を描いたことがあったのを思い出した。
どうしても、この白い花を描きたかったのだ。
鬱蒼としている緑の様子、若葉が湿気を帯び、様々な緑色を展開している。
そのなかで、ひっそりと、気品ありげに白を際立たせるどくだみの花。

だけど、とっても難しかった。
絵の具をのせればのせるほど、平面になってしまう葉の形。
光を入れたくても、曇り空のなかばかりでの写生だったから。
あの年は、雨の多い年だったのだろう。

その絵を額縁に入れるために持ちこんだ店で、
まるで男性の描いた絵のようだと、
感心されたのか、それとも言葉が見つからなかったのか、
わけのわからぬ批評をされた絵になった。


病室の窓辺で、
あの絵を描いていた頃の私を、一瞬思い出している私。
月日の流れの皮肉さを、少し恨めしく思った。
枇杷の実はまた、父の好物だったことをも思い出す材料で。


病室は、
患者の想いと、
付き添う者の想いと、
想いばかりの重い空間になりがちなのだ。
重病であれば尚更、言葉にならない空気が渦を巻く。
その重みを感じながら、
でも押し潰されないように気負いながら、
毎日生きていた。




そんなことを、ちょっと思い出したりしたんです。





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