みかんのつぶつぶ
DiaryINDEX|past|will
何も言わない。 私の目を見ようともしない。 心が閉じてしまったみたいだ。
家の中を見まわすと がんセンターから持ちかえった荷物が、まだそのまま置いてある。 まるでとても遠い日のことのように感じる。 いまでは半分以下になってしまった病室にある荷物。 彼が欲するものは、何もない・・・
オムツをそのまま棚に並べるのは忍びないので、 そっとPoloの紙袋にしまった。 彼が、カッコ悪いと嫌がっていたことがあったからね。
オムツを見ても傷つくよね。
右手の震えがひどくなってきた。 お箸を持っても、震えがきて動かせないでいる。 そっと、押さえてあげた。 お箸を手放す彼の気持ちを想うと・・・
夕食のおかずに炒め物が出て、 そのお皿をひっぱるから膝の上に乗せてあげた。 お箸を持とうするから、お箸を握らせてあげた。
皿のなかのおかずをかき回している・・・ 食べたくてもお箸でつまめないのかと、しばらく様子を見ていると・・・
彼は、お皿のなかにある野菜を炒めていた。 慣れた動作で、お箸を立てて、上手に炒めている・・・
「・・・炒めてるんだ…」 声をかける。 こっくりとうなずいていた。
何も、言葉をかけてあげられなかった。 何を言っても、言い訳にしかならないし、 誤魔化しにしかならないし。
彼の、叫びが聞こえた気がした・・・
|