みかんのつぶつぶ
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2001年10月19日(金)

泣いていた。
私の前で、結婚してから初めて、
病気になってから初めて、
彼が泣いていた。
ポロポロ涙を落としながら。
ベンチでふたりで泣いていた。

来週、修学旅行で北海道へ旅立つ息子が、
旅立つ前に逢いにくるからと伝えたら、
彼の表情が突然歪んで、泣き始めた。

「いい子だね・・・いい子だね・・・」

息子の頭を撫でるように、
私の頭を撫でながら。

隣りで会話をしていた親子が黙ってしまったけど、おかまいなく泣いた。

泣く元気が、今日は彼にはあった。

ホスピスへ行くことを彼に伝えようかと思案していたが、
彼の涙を見て、言葉にするのはやめた。

優しさより温もりを・・・
どんなに優しい思いやりのある言葉よりも、
今はそっと見守って側にいてあげるほうがいい。
何を言っても言い訳に聞こえ、
ますます彼を傷つけてしまいそうだから。

F先生も、彼のプライドを最も尊重してくれている。

「手術もできない治療もしないで
この古い建物の中にいるのは
あまりにも彼にとってみじめじゃないかと思うんだよね…」

そうなのだ、と思った。
これは、きっと男同士じゃないとわからない気持ちかも知れない。
様々な患者の経過を見ている先生の経験からくるものなのだろう。

彼は廊下でF先生と挨拶をかわしたあとに、

「あの先生は俺と友達なんだ。結構親しいんだよ」

と私に囁くのだ。
先生の心中を知ってか知らずか・・・

男同士、相通ずるものがきっとあるのだな、と思った。


よかったね、先生と出会えて。
運がいいよ、結構。
神さまも捨てたもんじゃないよね。

 










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