みかんのつぶつぶ
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衰弱のしかたが、あきらかに今までと違う。 眠り方も、静かにスヤスヤとして・・・
冗談を言ったり笑ったり、楽しそうにしているのだが 弱々しい声であり、痰もからみがちだったり・・・
「もう帰りたいです、生きているのがつらいです。帰らしてください」
熱にうなされたように、抑揚のない言い方で、 看護婦さんに訴えていた。 回転の悪くなった脳で、精一杯感じたことなのだろうか?
「俺は身体障害者じゃないよ、健康な人間なんだから、元気になるんだから」
私が顔を見せたとたんに無表情に、抑揚もない声で、 まるで独り言のように吐き出してきたのだ。 記憶の欠片のなかから拾い集めて、主張してきたのだと思う。
もしや、眠っているようで眠っているのではなくて 様々な思いや苦悩に、翻弄されているだけなのだろうか・・・
彼はまだ、自己の世界へ入りきってしまうことを必死に拒んでいるのだ。きっと。 空想の世界から急に現実的な言葉が飛び出してくる・・・
少しづつ少しづつ 健康だった彼の姿や精神が 目の前から失われてゆく。
少しづつ さよならして行くんだね。
寡黙な優しさを持つ彼らしく。
いやだな・・・ 彼の影が薄くなっている。 全てを丸く包み込むような雰囲気を 身体中から発している・・・ 父がそうだったように。
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