みかんのつぶつぶ
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2001年08月31日(金)

終わったんだなあー・・・って思ったら
急に心細くなってきた。

厳しい道程だった。
抗癌剤治療は、体力と気力の勝負だ。
私だったら、堪えられないな。
自分に負けて、殻に閉じこもり、治療を拒否するだろう。
目の当たりにしたいま、尚更だ。

彼は、起こさなければ眠ったままだ。
だいぶ消耗しているようだ。
首が固くなっているようで、身体の動きがいっそう悪くなっている。

精神は、すっかり自分の世界に入っている。
私へ電話をかけることも忘れている。
ちょっと不安定になってくる気配もあるのだが、
薬でなんとか保っている状態かな・・・

ずっと、ひとつの言葉をきっかけにした独り言のような世界を語っている。
笑顔を交えて、真剣に。
でも、ここにはあまり長くいない方がいいと云う。
帰る・・・と言い出す。

「まだ帰れないよ。点滴終わってないし・・・」

彼には悪いが、いまの私の状態では、とても世話はできない。
お互いの均衡を保つためにも、いまは離れていた方がいい。
家に連れて帰るのを躊躇しているから。

「じゃあ、俺は今晩はどうすればいいんだ?」

「ここで眠っててね。明日また来るからね」

「誰もいないのか?」

「看護婦さんにお願いしておくから。ナースコールはここね」

「うん、わかった。じゃあ気をつけてな」

彼は、彼自身が『仕事』のために残ると思っている。
だから『どうすればいいんだ?』って聞いてくるのだ。
それに私が帰ることが納得できないのだけれど、薬がなんとか納得させている…って状態なのかなあ・・・
それとも、そう、あんまり深く考えるという能力が薄くなってきているのかも知れないな。

子どもを言いくるめるようにして落ちつかせ、足早に病室をあとにする。

どうか穏やかに眠りについてくれますようにと祈りながら
人影まばらな道を帰る夏の夜・・・
こんな日々もいつの日か
忘れがたい過ぎ去りし想い出となるのだ。

そんなことを思いながら
背中を丸め夜道を足早に歩く自分の姿は
月明かりのなか
重いコブを背中にのせ
伏目がちな
砂漠をゆくラクダのようだと思った。

 

 

 



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