みかんのつぶつぶ
DiaryINDEX|past|will
婦長さんから声をかけられた。 お話しをしたいと思っていたのですが・・・と。
彼がどんな気持ちでいるのか、毎日一緒にいる私にしかわからないだろうから…と。
そんなこと聞かれても、たいした話しをしているわけではないから困った。
「先生のゴールと患者さんのゴールが違いすぎると良くないと思いまして…」
ハッとした。 そうなのだ、全ての治療が終わった段階で、どのような結果になるのか、なっているのか。 左半身の神経が全て蘇えってくるわけではなく、 ましてや腫瘍が全て消えているわけではなく、 もっともっと悲惨なのは、 彼が切望している社会復帰は、 もう・・・無理だろう・・・
でも彼はきっと仕事に復帰できる身体になると信じている…いや、望んでいる、希望をみている。 このギャップを懸念している婦長さんの言葉だった。
この問題について、ふたりで話し合うことは皆無だ。 触れることさえもしないでいる。 私の気持ちは、 病気を受けとめ、治療に耐え、という毎日に、 これ以上彼に苦悩を与えたくないと思っている。 だれが、なにが悪いわけでもなく、 恨むこともできない。 どうすることもできない、やり切れない現実に、 『これから』の問題を、彼に考えさせることは、 私にはできない。
いや・・・ 彼はすでに思い巡らして絶望の淵に追いやられている。 言葉にしないだけだ。 独り、ただ独りで考えていたはずだ。 考えないわけないじゃないか・・・ 仕事に対してあんなに厳しいひとが、 この自分の置かれている状況が、どんな展開になるかということを・・・
あえて言葉にださせるまい。
患者の『希望』『夢』として 仕事への復帰を残していきたいと、 婦長さんに伝えた。 理解してくださったようだ。 看護婦さん達にも、そのように申し送りされるだろう。
|