春雷や刻来り去り遠ざかり(獅子鷲)


 Past : Will 2004年05月23日(日) 


まだ夕方というには、ちょっと早い時間なのに、いまにも振り出しそうな厚い雲に覆われた薄暗い空。
明かりをつけるのも億劫でそのままにしていたが、部屋の中も不吉に静まり返り、遠雷のゴロゴロという音が、微かにに響く。
足元を抜けていく生ぬるい風。
こりゃ、降るな。と、窓から外を覗くと、ポツリと大きな雨粒が、俺の頬に当たった。

ぽつり。ぽつり。ぽつり。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。

灰色のアスファルトに、大きな黒い花が咲きはじめたかと思うと、数瞬して、それはざっと激しい音に変わった。
激しく降り付ける雨は、網戸を叩き、ベランダで跳ね、あっと思う間もなく、部屋の中に振り込んできて、俺は慌てて、家中の窓を閉めて回る。
カッと黄色い稲光がして、どこか遠くでバリバリと引き裂くような音が続く。
まだ、遠い。
部屋の真ん中に座り、締め切った窓の向こうを眺めた。


しばらくすると、ばたばたと激しい靴音がして、鍵を回す音が続き…。

「あ〜あ。降られちゃったよ〜」

そんな声とともに、ドカドカと、いつものコイツにしては荒い足音がして、部屋の空気が動いた。
パチッと電気をつけて、俺の姿に気がついたのか、軽く、「わっ」という驚いた声が降ってくる。

「岳、来てたの?ったく、電気くらい点けなよ。びっくりした〜」
「おかえり。電気消せよ」
「なんで?」
「雷が光るの、好きなんだ」
「…物好き。でも、らしいね」

もぅ、とか言いながら、パチンと明かりが落とされる。
それから、洗面所にタオルを取りに行き、部屋にシャツを替えに行き、買ってきた食材を冷蔵庫に入れて、と、しばらくぱたぱた歩き回っていた走は、すべての任務を終了したのか、俺の斜め後ろへ腰を下ろした。

「なんっか蒸し暑くない?」
「おい、窓は開けるな。雨が降り込む」

俺の制止に、ちぇっと舌打ちをして、リモコンに手を伸ばす。
そして、スイッチをオンにすると、そのままごろりと横たわった。
夏が来たら、雨の振り込まない縁側とかで、涼しい風に吹かれながら雷見物するのが、一番オツなんだけどなあ。と、空調からふき出した乾いた風に頬を撫でられながら、俺は、ぼう…と窓の外を眺め続けていた。


後ろから伸びてきた手が、気を引くように膝に触れるので、背後を伺うようにそっと視線をやると、ヤツは知らん顔で窓の外を眺めている。

「あ、光った」

一瞬、目を見開いて、それからニヤッと笑った。
見とれていたら、笑顔を見ていた視界が遮られ。
唇に、湿った感触。


「首、痛いって…」

「じゃあ、こっち向いて?」


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雷鳴るって言ってたのになぁ。
5月23日はキスの日。ってー教えて貰ったので。
最近の、ごくふつーな獅子鷲日常。


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