継ぎて咲くべく なりにてあらずや(獅子鷲)


 Past : Will 2004年04月19日(月) 


昇れば改札で、降りればホーム。
駅の階段の途中の踊り場で、

「お、スゲェぞ」

ふと立ち止まった岳が、切れ長の瞳をパッと大きくした。

「急に止まるなって。迷惑になんじゃん」
「だってほら」

そう言って指差す先に、殆ど花の落ちた桜がある。
チラホラと残る薄ピンクの花びらよりも、その周りのオレンジっぽい部分のほうが目立つ。
満開の桜なら、そりゃ立ち止まって眺める価値もありそうだけど。

電車から吐き出された人間が、次々に俺たちを追い越していって、しまいには誰もいなくなってしまった。
しかし、じぃ〜っと桜の木を見つめて動こうとしないので、

「…で、これのなにがすごいんだよ?」
「まあ、いいからちょっと待ってろって」

ニッと笑って、抑えるような仕草を見せる。
こういう時の岳に、何を言っても無駄だ。
気が短いくせに、待つと決めたら、石の上で三年待てるヤツだから。
仕方ない。先を急いでるわけでもないし、黙ってつきやってやるか。
と、足元に吹きだまっている花びらの残骸を軽く突ついてみた。

階段を上り下りする乗客に踏みにじられて、すっかり茶色くしなびてしまった花びら。
花の命は短くて。とは良く言ったもんだ。

「おい」
「ん?」
「来るぞ」

…なにが? と、口を開きかけ、振りかえって、俺は呆然とした。
ザァッと大きな風が枝を揺らし、ホロホロと花びらがこぼれるように宙を舞う。
どこにそんなに残っていたのか不思議なほどの花吹雪は、重力を感じさせない動きで光の中を横切り、ハラハラと静かに降り注ぐ。

踊り場に吹き込んだ風は、大きく花びらをばらまいて、そのままホームへ駆け下りていった。
足元に吹き寄せられた茶色の残骸を覆うようにして、散ったばかりの薄紅の花びらがかぶさっていることに気がつき、それを踏みつけないように、俺はそっと足をずらした。



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万葉集の巻五に、
『梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべく なりにてあらずや』
という歌があって、それがとても好きなのです。

いつもいつも、こんな小ネタばかりなのに、沢山の拍手ありがとうございます(><)


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