獅子鷲(訪) 


 Past : Will 2003年09月12日(金) 


ガチャンと鍵の回る虚ろな音が、マンションの廊下に響き渡る。
薄く開いたドアの隙間からチラッと俺を見た岳は、小さく笑った。
それから、俺が入れるように、ドアを大きく開けて。

「チェーンも閉めとけよ」
「うん」

鍵を閉め、チェーンをかけて、靴を脱ぐ。
そして、真っ直ぐ風呂場に直行した岳を追いかけると、なんでだか、いきなり風呂掃除してるし。

「あ〜ハラへった!何か食べるもんない?」
「悪ぃ。忙しくて何も用意出来なくってよー」
「あ、そっか。いいっていいって。大丈夫」
「冷蔵庫でも何でも勝手に開けて、好きに食えよ」

「じゃあ、岳」
「…お前はそう言うと思った」

呆れた冷たい視線で、チロリと睨むと、おもむろに風呂のドアを閉められた…。くそー。ちょっとしたお約束ってヤツじゃん。って九割は本気だけど。

スケジュールが詰まってくると、ちょっとした仕草や表情を思い出して、無性に会いたくなる。なのに、実際に時間を作って会いに来ると、実物はこんなもん。
思い出は美しきもの。現実は、厳しきもの。解っちゃいるけどさ。
ひとつ溜息をついて、俺は荷物を降ろした。

けっこう広いリビングは、いつもの事ながらすっきりしている。
と、いうか、物が無い。
特徴のあるフランス製の照明に、テレビとソファとラックとチェスト。それ以外のインテリアと言えば、CDの沢山入ったラックに飾られている飛行機の模型と、壁の一角に立てかけられたコルクボードくらい。コルクボードには、懐かしいガオズロックにいた時の写真もあれば、学ラン姿で友達と肩を組んでる、多分高校の卒業式の写真。少年サッカーチームの写真なんて古いものもある。
それから、空自のパイロット姿の岳の写真。そういや、この間雑誌の取材受けたとか言ってたな。
なんだよ、自分の写真なんか飾っちゃって。実はナルシストか?なんて軽くつついたら、緩んでいた細いピンが外れて、ヒラヒラと床に落ちた。

「…ふーん」

自分の写真の下に、もう一枚、別の写真。
しかも、他でもない俺の写真。これ、海が仕事場に訪ねてきたときのだな。へぇ…ここまで回ってたのか。

ほんと、意地っ張りというか、何というか…。
別に、自分以外の誰が見るわけでもないだろうに、わざわざ隠す必要がどこにあるんだか。まぁ、そういうとこが可愛いんだけど。
まぁ、俺が知っちゃったことを知ったら…ねぇ?それはちょっと可哀想だし。
もともとあったように、二枚の写真をピンで留め直して、頬を引き締めた。
後で岳の顔を見て、ニヤニヤしないように気を付けないと。
触らぬ神になんとやら。あれ、ちょっと違う?

さて、何か食べるものでも探そうっと。
部屋を出てキッチンへ行くと、風呂掃除を終えた岳は、今度は洗濯機を回していた。基本的に、岳は俺が居ようが居まいが、関係無しにマイペース。そういう距離の取り方は好きだし、概ね心地良いけど、時としてちょっともどかしい。

お許しが出ていようがいまいが、勝手知ったるというヤツで、心置きなく冷蔵庫の中を覗き込むと、そんな俺の背後から、

「あ〜、全然何もねぇなぁ」

耳元に岳の暖かい息がかかって、思いがけずドギマギした。
振り返ると、すごく近くに顔がある。

「やっぱ、岳を食べるしかなさそうじゃない?」

言いながら、キスをしようと首を伸ばしたが、目論見は外れて、頬を掠っただけだった。
身体を引いた岳は、軽く俺を睨んで、

「これでも、食っとけ。俺はまだすることがあんだよ」
「味気ないなぁ。ま、こういうのも好きだけど」
「文句あるなら外で弁当でも…っておい、絡みつくなッ」

シンク下のストックから取り出したカップ麺を、俺の手に押し付けて来る。すかさず腕を掴んで引き寄せると、案外簡単に俺の方に倒れ込んできた。反射的に逃げようとする身体を抱き締めると、ふわっと水の匂いが漂ってくる。

「いただきます」



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ごめんなさい、明日もちょっと続きます(笑)
鷲は自衛隊の寮を出て、一人暮しをしているという設定。
獣医のお宅訪問篇です。

帰ってきたら高校生クイズをやっていて、見たらなんと地元の高校が勝ち残っていました。しかも優勝。はー。友達の母校も出ていたなぁそう言えば。

高校生って可愛いなあ。
中学生も可愛いなぁ。


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