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2003年02月01日(土) 屋根まで飛んで 壊れて消えた。



やすくんの車を2人で洗った。

やすくんは水洗いとワックス塗り。そのあと車内の掃除機かけ。

私は、ワックスのふき取りと車内のぞうきんがけ。



9年も乗っていたというやすくんのお気に入りの車だけど、

この春手放すことになった。

私と出会う前のやすくんを知っている車。

出会ってからの私たちを知っている車。

初めて出会ったときも、この車が目印になった。

ドキドキして乗ったあの日。


仕事を終えてから急いでやすくんの所へ向かってた頃。

熱海の駅までむかえに来てくれたやすくんの顔と

車に乗り込んだ瞬間、なんだかホッとしたことを思い出した。



もうすぐお別れかあ・・・

そう思うと、せめてその日まできれいでいて欲しいと

車内を磨く手につい力が入る。



座席の後ろのポケットに入っている物を出して中を拭いたり、

ドアポケットの中を拭いたり。


隅々まで拭いていると

どうしても目に付く茶色の長い髪。

そんなにたくさんじゃないけど、長いから目立ってしまう。




そう。

9年間のやすくんを見てきたこの車には

きっと、アノヒトとの思い出も詰まっているのだろう。

2人でどこか出かけたり、同じ景色を見たりしたんだろう

と思った。

でも、不思議なことにそれ以上の気持ちが溢れることはなかった。



「ねえねえ、正直に答えてね」

「なに?」

「茶色の長い髪がいくつか落ちてたけど、誰の?」


我ながら、意地悪な質問。


「ん?そんなのわかんないよ。会社の奴もかなり乗せてるし」

やすくんは表情ひとつ変えずに答えようとしているけど

答えがわかっている私には、それが不自然だって事はすぐわかる。

「ほんとに?」

「うーん・・あ、そうだ、きっと妹のだ」

「そんなわけないでしょ。妹はこの車に乗ったことないってこの前言ってた」

「だったら、会社の○○だよ。何度か一緒に出張したし」

「だって、○○さんこんなに髪の毛長くないでしょ?」


どんどん追いつめられてるやすくんの顔をみて

笑いがこみ上げてくる。


「・・・きき、どうしてそこまで追求するの?だれのか、検討ついてそうじゃん」

笑って誤魔化しながらやすくんがそう言う。


「だってさ、あんまり隠されるといろいろ勘ぐりたくなるでしょう?
 
 ちゃんとやすくんの口から言われた方が気が楽だから」


「・・そう。図星だよ。ききが考えてるとおり」


「へぇ。前の彼女って髪の毛長かったんだ」




すごく自然に、作ったりしないで自然に

笑うことが出来た。



アノヒトへのこだわりが、いろんな思いが

いつの間にか、すっきり消えていた。

ううん、もしかしたら消えてないかもしれないけど

きちんと、過去のこととして整理されたんだと思う。



昨日消えたあの黒い固まりが

もしかして、これまでアノヒトのことにこだわって

やすくんを困らせてしまった原因だったのかもしれない。



だから今日の私は

不思議なくらいにさっぱりと、そして楽しく

あんな会話が出来たのかもしれない。






もう、迷わない。


もう、こだわらない。


まっすぐ。


自分の気持ちにまっすぐ。







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