よるの読書日記
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征夷大将軍の娘として生まれ 天皇に嫁ぎ、そして自分の娘が 帝となった和子(まさこ)姫。当時の女性としては 最高の富と名誉に恵まれた彼女ですが、幸せとばかりも 言い切れなかったようです。 魑魅魍魎の跋扈する宮中で、所詮武門の出と軽んじられ、 嫉まれ妬まれ、夫と実家の関係がこじれれば 夫の心も遠ざかり…… 。
『東福門院和子の涙』<宮尾 登美子/講談社>は、生い立ちから 彼女を見つめ、彼女が決して政治の道具ではなく、一人の 人間だったことを侍女の目から描いています。 徳川三代と言えば大河ドラマでも毎回のように出てきますが、 有名な人間関係が、この和子姫の性格に関わっているのが 生き生きと伝わって面白いです。 二代将軍夫人が自分の育てた次男を可愛がり、春日局が育てた 長男を愛さなかった、というのはもう有名すぎるエピソードだけれど、 生まれたばかりの妹姫の小さな握りこぶしに、長男が 噛み付いて――初めて赤ん坊を見るような男の子なら やりかねないことですが、女児をたくさんを育てたおごうの方には しつけの足らない乱暴な所作として映った、というのは本当に ありそうに思えます。
またほとんど側室を持たず妻を大切にした父を見て育てば、 一夫多妻が当然の宮中生活は辛いものだったでしょう。 しかしこれをサポートする父ちゃん兄ちゃんのすることがすごい。 帝のお手がついて身ごもった女性を、……コワーイ。 愛を争う女達より、権力が絡んでいる時の男のほうが、残酷で 非情です。くわばらくわばら。
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