よるの読書日記
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『聖なる春』<久世光彦/新潮社文庫> 滅多に行きませんでしたが、私は大学図書館の書庫が異常に好きでした。 好きだから慣れたくなくて行かないんじゃないかと思うほど。 ぼーっと言う空調の音。無数の本が眠っている匂い。 何故か無性にわくわくしたものです。 食糧さえ万全なら来世紀まであそこで暮らせるぜと本気で思いましたね。 あ、もちろん前世紀の話ですけど。
ですからまあ、蔵でほとんど外出しないで生きていけるって彼は、 本当に偽画を描くのが好きなんでしょう。 なんだかこの小説は最初の書き出しにやられちゃったなぁ。 光に照らされる埃というのは、じっと見つめていると もの悲しく昔の自分を思い出させます。 いつかそうして言葉もなく見ていた子供に還ると言うか。 ちょうど今の季節って別れがあって出会いの予感があって、 ぱりぱりしたまっさらのシーツみたいな空気が漂ってますよね。 初夏に近づく暖かな春よりも、梅の蕾が開いて オオイヌノフグリが咲いて、つくしが顔を出し始める今の方が 「聖なる春」と呼ぶにはふさわしいのかも。
あと、恋人の痣をオセアニア大陸みたいだよって 言ってあげられる女って、格好良いよね。
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