よるの読書日記
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2002年01月04日(金) 先入観を持って読んではいけないという総天然色見本

えーっと、これって評伝なの?それとも小説?
わからないまま読んだ2002年の読み初めは
『ピカレスク』<猪瀬直樹/小学館>。
猪瀬氏と言うと佐竹高氏<『タレント文化人百人斬り』/現代教養文庫>
にさんざん小物呼ばわりされてた人というイメージと
何の雑誌か忘れましたが若者海外ボランティア義務化みたいなことを
唱えてて阿呆かこのオッサン(人違いだったらごめんなさい)、
やる気のないボランティア送るなんてプルトニウム輸出するより
相手に御迷惑だっつうのと思った覚えが強い。
いくらなんでももうそんなこと言ってないだろうな。

サブタイトルは太宰治伝です。
文学少女なら(まだ言うか)一度は通る道、太宰さん。
正直あんまり好きじゃないんだけどねー。
偽悪っぽいところが馴染めない。
やるならやるで開き直ってればまだいいのに、
ごめんなさいごめんなさい、と言いながらやめないあたりが。
そんなわけであとがきにあるこれまでの太宰のイメージとして
「人間失格の弱い男で、生きることに耐えられず、
常に死を追い求めていた」と言うのは最初から私は違うと思ってます。
大体作者の描こうとしたという太宰の狡い一面って私大昔に
寺山修二の文章でも読んだことあるぞ。
別に威張って言うほど新しい太宰像でもなかったな。

そしてこの小説で力入ってる何故太宰が
「井伏さんは、悪人です」
と遺書に書いたのか、でありますが。
答えは、出てる。しかし何故遺書にまで、という裏づけがなくて
隔靴掻痒な感じ。
これだけ書くならいっそ井伏鱒二伝にした方が良かったんでないの。
だってピカレスク(悪漢小説)でしょ?
冷静に評価したいんですけど先入観が邪魔をして
悪口ばかり書いている……。
ま、いいか。私の場合ご本人は生きている(笑)。

この本で白眉だったのは、防空壕から出てきた太宰の長兄が、
「早く焼けないかな、こんな家……」
と言う場面。
ここだけぐっときた。
膨大な参考文献を読んだり存命の関係者に証言を得たりした労力は
すごいと思いますが、しかしそれだけに、この場面が
実話なのか作者の力量による創作なのか。
余計なことを悩んでしてしまうのでありました……。
国文学、特に太宰治に詳しい偉い人、誰か教えて。


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