ヤグネットの毎日
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| 2002年08月18日(日) |
『千里眼』運命の暗示 を読む |
『千里眼』運命の暗示 松岡圭祐著(小学館文庫)を読み終えた。すっかりはまってしまった「松岡ワールド」。この「『千里眼』運命の暗示」は、千里眼シリーズの第三弾にあたる。第一弾、第二弾もこの機会に感想をアップするので興味のある方は覘いてほしい。 本作品は、前作「『千里眼』ミドリの猿」の続編である。中途半端に幕を閉じ、いくつもの謎を残したままページがきれるので、読者にとってはいたたまれず、次を読みたくなる。もちろん僕も本屋に走ってしまったクチの一人だ。 他の愛読者もそうだろうが、主人公の岬美由紀のキャラクターがこのシリーズの魅力だ。 防衛大学を優秀な成績で卒業し、航空自衛官として「トップガン」まで上りつめる直前で除隊する。災害地での救援活動の折り、被災者への献身的なカウンセリングを施す友里佐知子の姿に感銘し、心理カウンセラーとしての道を歩み始める。 頭脳明晰、オフのときには、ピアノやバイオリンをたしなむ。格闘技は滅法強く、社会悪や権力には徹底して立ち向かう一方で、弱いもの(とくに子ども)は体を張って守り抜く。その正義感は、時として破天荒な行動につながり、新たな事件のきっかけをつくることにもなる。『千里眼』での活躍が認められて内閣官房長官直属の首席精神衛生官の職についた美由紀が、野口官房長官とともにОDA援助国へ視察に赴いたとき、戦闘に巻き込まれそうになった子どもたちを助けようとして暴走してしまう。実はこの暴走が、前作『千里眼ミドリの猿』のプロローグとなり、アフリカ大陸から、中国、そして日本という壮大なスケールのストーリー展開がはじまることになるのだ。具体的なストーリーはぜひ本作品を読んでほしいが、「千里眼」シリーズは、「心理カウンセラー」という職業が登場し、催眠療法や精神障害についての記述も出てくる。 メフィスト・コンサルティングという世界的規模で暗躍する組織の陰謀で、中国の人たちが集団催眠にかけられ、岬美由紀を悪の象徴として、口々に殺意を叫ぶシーンがある。その部分で、こんな描写がある。少し長いが引用する。
すべてメフィスト・コンサルティングの罠なのだ。それがわかっていても、誰も申し立てを聞いてくれない。 美由紀も、いままで出会った数多くの人たちも、皆かつては赤ん坊だった。母親が身ごもり、出産の苦労を経てでもこの世に送り出そうとした生命だ。生まれたとき、子は親にどんなに愛されたことだろう。誰もひとりでは生きられない。赤ん坊のころはなおさら のことだ。 生命を、そして人生を歩みだすことを支えてくれた大人がいる。だからいまがある。誰もがそうだ。そのはずだ。少なからず愛を受けて始まったはずの人生が、なぜ憎しみあいに変わってしまうのか。私利私欲のために人を傷つけてもいいと、いつ学ぶのか。 殺せとか、死ねとか叫ぶ。自分がそうされたいとは絶対に思わないはずのことを他人にはぶつけられるのか。美由紀にはわからなかった。
こうして、憎しみ合う人の心に美由紀は号泣するのだが、松岡圭祐さんの作品の根底には、人間に対する深い愛情がある。人間のよりよく生きようという本能についての信頼のようなものだ。 だから、描かれる人物像は、深く多面的だ。複雑な存在だが基本的には前を向いて歩いていくそんな人間の可能性を秘めた登場人物が松岡ワールドを、より広がりのある世界へと読者をいざなう。
実は、本作品もまだ完結したとはいえない。岬美由紀にとって、宿敵ともいえるある重要な人物が死亡したとおもわれていたのに、最後にミステリアスな形で再登場する。次の作品もすでに文庫化され、店頭に並んでる。早く読みすすめたいという衝動に、駆られ続けている。
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