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気まぐれ日記 DiaryINDEX|past|will
肩あたりまで伸びたのはいいんですが、伸びると厚さ倍増。毛先がまるまるため頬に当たって邪魔くさい。ああ、切りてー。 三月十四日、ホワイトデー。 そんなこと綾名は忘れていた。 「可奈ちゃん、待った?」 秀介が呼びかける。有名な犬の像の前での待ち合わせはこの町では当たり前になっている。犬の名前はゴンザレス=マーティンス=グロウアップ=グレイト=ポチ。その昔、山に生息していた凶悪な熊、マウンティン=エリベスト=クロウズン=ベア=ハチゴローを倒した伝説的名犬として奉ったものだった。そんなことはどうでもいい。 「はい、今来たところです」 「先月はありがとう。すんごく美味しかったよ。だから、今日はお礼したくて」 「お気を使わなくても......」 「今日はホワイトデーだから奢らせてよ。でも、俺何がいいのか分からないから、どこがオススメかな」 「じゃあ、私の行きつけの店へ」 「可奈ちゃんの行きつけの店か......うん、じゃあそこへ行こうか?」 それを岡崎秀介ファンクラブが黙っていなかった。岡崎秀介はその魔性により変態、変人、奇人にしか愛されない。可奈は例外的に奇人でも秀介と気が合うらしい。そもそも、彼を陰鬱とさせていた魔を退けたのは、可奈と春季だった。 「くそう、魔女め!」 覆面の一人が言った。 「しかし、秀介様、なぜあんな魔女と......」 「やっかいなのが付き合いましたね。まだ中野春季の方が楽だったわ」 「春季のことを言うな! あれもやっかいといやぁ、やっかいだ」 ファンクラブの三人組は二人の尾行をしながらそんな話をする。とにかく、その二人が邪魔だった。秀介を影で愛でて、ある時は襲い、ある時は助ける。そんな腐ったファンクラブである。 「ここです」 可奈が指差したのは綺麗な洋館だった。『喫茶 鷸』と書かれている。 「へえ、何?」 秀介は字が読めなかった。鳥が付いているので鳥の名前だろうととは思う。 「シギです。さ、入りましょう。ここのデザートはもちろん、軽食もおいしいです」 「そう......」 「しかも、お値段もリーズナブルです」 「へえ」 洋館へ二人は入っていく。後を追って三人も入っていった。 BGMも何もない喫茶店だった。結構繁華街にあるに関わらず、音と言えばアンティークな古時計が時を刻んでいるだけ。 「いらっしゃいませ。可奈様、お久しぶりですね』 燕尾服にモノクルの青年が現れた。古風な感もするが今流行りの執事喫茶なのかと秀介は思う。 「こんにちは。今日はプライベートなの。でもこの人は大切な人、だから今日のお薦めをお願いね」 「かしこまりました。では、ご席へご案内します」 青年は二人を席へ案内した。他の客たちも静かでとある女性は紅茶と菓子を楽しみ、とある男女は静かに談笑し合っている。 「こちらへどうぞ」 「ありがとう」 「えと、じゃあ......」 「お薦めでいいです。大丈夫、秀介さんも気に入ってくれます」 「そう......」 店は静か過ぎた。時計の音しか聞こえない。 「秀介さん、今日はありがとうございます。誘ってくれてとっても嬉しかった」 「この間のお礼もあるけど、可奈ちゃんは俺の恩人だから。だからこれはありがとうの意味で」 「じゃあ、遠慮なく......」 一方、三人組。 洋館の外で中の様子を伺おうとしていた。 「これはこれは、可奈様のお知り合いですか?」 と、モノクルの青年。 「魔女の知り合いなど知らん」 「やれやれ、懲りない方々だ。では私からも鉄随を食らわせましょう」 青年、姿を変える。その姿は鷸。それも凶悪な方向へいった巨大だった。その嘴で三人とも飲み込んでしまった。 しばらくして、巨大鷸はモノクルの青年に戻る。 「そろそろ、出来る頃ですねぇ」 「本日のお薦め、ハーブティーとスコーンのセットでございます」 「いつものと同じ」 「それは言わない約束です。可奈様」 「よく分かったわね」 「ええ、人間は分かりやすいですから」 小声で話し合い、それから青年は言った。 「ああ、甘いのが苦手でしたらこちらのシロップをお使いください。甘みを抑えて、スコーンをしっとりさせますので。では、ごゆっくり」 モノクルの青年はテーブルを離れる。 「じゃ、いただきましょう。秀介さん」 「ああ、そうだね」 秀介はスコーンを一つ手に取ってシロップを少し掛けた。それを口に入れる。 「ほんとだ。いい甘さだね」 「ね、気に入っていただけると思いました」 可奈は笑顔で答えた。 一方、良介は学校に出向いてた。 「お疲れ」 「アレ? 良介、どうしたの?」 綾名は尋ねる。 「今日、ほら、ホワイトデーだろ」 「ああ、そういえば」 「だから、お礼」 「ええ、でも、結局半分以上私が食べちゃった」 「それはいいんだ。綾名からもらったのが嬉しい」 良介がそう言って、綾名が少しだけ顔を赤らめた。 「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」 「甘えていいよ」 そのとき、空から何かが落ちて来た。 「何!?」 それはファンクラブ三人組だった。 何も見なかった振りをして、二人はケーキバイキングへと向かった。
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