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ポチが死んでから5日経った。 もう、あの日は遥か昔だったような気がする。 今日も朝食を食べながら弟と話す。あまり食が進まない様子の弟は言った。 「ねえ、ポチがいなくなってから5日…しか経ってないんだよね。もうずっと前だった気がするよね」 「…ああ」 あの1日はとても長い日だった。朝に動かないポチを見つけてから、ポチを墓地に埋めて帰って来るまでの間、まるで何ヶ月も経ったような気がしていた。大げさな表現ではない。あまりに目まぐるしく事が進んだせいか、前の日の記憶も曖昧になっていた。 「いろいろ、ありすぎたからな」 俺の口から出た言葉を、いくみはゆっくりと反芻するように繰り返した。 「…うん、いろいろ、あったよね。でもやれるだけの事はやったよね」 「そうだな」 いくみは小さく笑った。気持ちを整理するように。その笑顔は寂しさを消化して、前へ行こうとする気持ちの現れのように感じた。俺はそんな弟を頼もしいと、そして愛おしいと思っている。 家族ってそういうものなんだろう。近すぎてなかなか大切さに気付かなかったりするけれど。 「雪が振る前に、もう1回墓参りに行こうな。あの野良猫たちにも何か持ってな」 「うん!」 いくみは少し元気が出たみたいだった。その様子に俺も思わず少し微笑んだ。 ひとつ欠けた家族のかけら、それをどうやってこれから埋めていくか。多分答えもここにある。
いつもその前を通ると、無意識に犬小屋を見てしまう。そして、ああ、ポチはいないんだと思い出す。 分かっていても、長年の習慣はなかなか体から離れない。 とりあえず、しばらくはこのまま時間に身を任せてみようと思っている。犬小屋もしばらくはそのままにしておくつもりだ。 多分、薄れていくいろいろなものは記憶と上手く混ざって心のどこかへしまわれていくはずだから。 そして俺の一部になって、ときどき顔を出しては俺を慰めてくれるはず。 それまで俺は待っていよう。
今日も出かける前に、いつものように犬小屋をみつめる。 ふと、いつもは家を出ているはずのいくみが隣にいることに気が付いた。 「どうした。まだ時間いいのか」 「今日は学校休みだから」 そう言えば今日は第4土曜だった。そのことも忘れていた自分に苦笑する。 いくみはポチのいた小屋を大切そうに撫でると、俺に聞いた。 「…ねえ、お兄ちゃん、明日休みだよね。…犬小屋片付けちゃう?」 「いや、まだしばらくこのままでいい」 俺は普通に答えたが、さっき考えていたことを聞かれたので少し驚いていた。 「…そうだよね。しばらくはいいよね」 俺は頷いた。いくみは安心したように犬小屋に視線を戻した。 俺といくみの今考えていることは似ている。だから、これから思い出すこともきっと似ている。 同じ記憶を共有しているこいつがいる限り、俺は大丈夫だから。 俺はもう一度犬小屋を見る。そしていくみとポチに「行ってくる」と挨拶すると、俺はいつものように家を後にした。
今日も空は青くて、雪もしばらくは降らないような気がした。
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