ぶらい回顧録

2002年09月29日(日) ヘイ・ブルドッグ

KFAはビートルズの曲をいくつかカバーしています。そもそも、KFAのメンバーが初めて出会ったのはパソコン通信のビートルズ好きの集まる会議室で。メンバー全員、ビートルズにはひとかたならぬ思い入れを抱いているわけです。オレ(アタシ) に語らせろ、ビートルズのことは、と思っているわけです。

なのに何故かバンドを結成してみたら「さあビートルズを演ろう!」という雰囲気には全然ならず。3人のときもそうだったし、まきちゃんが正式メンバーとして加入した後もそう。

なんでだろ?

ひとつには、なべちゃんとみんちゃんがKFA以前に「L freaks」というビートルズ系バンドをやっていたことがある。特になべちゃんはここでばりばりの「ジョン」をやっているわけで。KFAで同じことをやっても、という雰囲気は最初からあった。

まあなべちゃんが「やっぱりジョンならオレだ」と自身再認識したぐらいのハマリっぷりを「L freaks」で披露してしまったせいで、KFAを始めてからも一部の方からは「やっぱりなべさんにはジョンをやってもらわないと」という声がありました。そうなるとヒネクレもの揃いのKFAとしては意地でもビートルズなんかやるものか、と、これは嘘ですが。

それから、KFAはメンバー4人の共通して好きなものの他に、それぞれが持っているバックボーンがかなりバラエティーに富んでいる、ということもあります。ありていに言えば好みがバラバラ。なんせ4人とも自分の好きなものをバンドに持ち込もうとして玉砕した経験があるってなもんで。

せっかくここまで多彩な音楽性を持ったメンバーが集まったのにビートルズなんかやるのは勿体ない、と。これも少し嘘です。

「ビートルズ好きならどうしてビートルズやらないの?」「どうして原曲通りにやらないの?」といささか挑発的に尋ねられることもしばしばあります。少しカッコつけてあらためてこう答えておきましょう。「ビートルズをやらなくたって『ビートリー』を表現することは出来るんだよ、ある意味ではビートルズそのものをやること以上にね」と。

あー、なんかだらだらと言い訳っぽいですね。あたかもKFAを代表するかのように書いてますが、「ぶらい回顧録」はあくまでやまのしげきの私見であって、他のメンバーの意見を集約したものではないことを為念で記しておきます。記憶違いもたぶん、あります。

そんなわけで、と書いても全然つながってませんが、そんなわけでKFAはビートルズを自分達なりにカバーしています。そんな「KFA流カバー」の成り立ちを書いてみたら面白いかなと思い、カバーした順に取り上げていきます。

よろしければおつきあいを。


「ヘイ・ブルドッグ」

記念すべきビートルズ・カバー第1弾。

知っているひとは少ないだろうけど、KFAはデビューライブでニルヴァーナの"Smells like teen's spirits"を演奏している。この曲を提案したなべちゃんの真意はあらたまって聞いてみたことはないが、パンクからグランジへ至る流れの「究極のアンセム」であるところのこの曲、新バンドの船出にふさわしいと感じていた。特に、多分にロックミュージックの「破壊的側面」に過大なシンパシーを感じる僕としては。今から思えば、新バンドに対して先走り気味の、いかにも僕らしい情緒過多な思い込みだ。つまり僕は当初KFAを「そういうバンド」と考えていたのだ。

デビューライブに向けての初リハーサル中、どういういきさつで「ヘイ・ブルドッグ」が浮上してきたのか、よく覚えていない。お互いの手のうちを探りながら「これをやろう」「あれをやろう」と言い合っているうちに、誰かが我々の共通項であるところの「ビートルズ」から、やや安直に出してきた曲目だったような気もする。

最初にKFAでこの曲を試した時は、ただ「ひたすらラウドに、ひたすら激しく」演奏してみただけで、そこになんの工夫もなかった。でも僕は「おお、いいじゃん、これ」と大変満足していた。KFAにパンク的、グランジ的要素を求めていた僕としては、ただ「ブチかます」ことさえ出来ればそれでOK。しかも相手はビートルズ、それを力まかせに演奏できて、ただただ痛快だった。そのとき僕にはそれで充分だったのだ。

ここでもし僕が「いいじゃん」と言ったまま突っ走っていればKFAは「そこ」止まりだったんだろうな。本当にもう少しでこの「力まかせバージョン」はステージで演奏するところだったのだ。だが、みんちゃんだった思うのだけど、こういう声がスタジオであがった。「これではまだ人様にお見せできるレベルに達していない」。

僕は不満だった。「えー?いいじゃん、これで」と強く主張したものの他の3人(すでにまきちゃんはリハーサルに参加していた)は同意見。渋々このバージョンを没にすることに僕も同意したのだけど、これはメンバーが正しかった。

あらためて考えてみると「ビートルズをただラウドに演奏する」、画期的に見えてこんな手垢にまみれた手法はなかったわけで、見渡してみると、プロ・アマを問わずただそれだけで「カバー」としてしまっているバンドのなんと多いことか。いや、もちろんそれだって立派なカバー、そうしたアプローチの肉体的快感まで否定するつもりはない。どころか僕の中にはその手法、と言うかアティテュードへの羨望は今でも根強くある。

でもやっぱりそれは違う。あるいはこう言えるかも。それは少なくともKFAというバンドが本当にやりたい事ではなかった。

結局、デビューライブで「ヘイ・ブルドッグ」は披露されないまま終わった。

「ヘイ・ブルドッグ」の、あの耳を惹くギターリフレインを変拍子にする、とは誰のアイデアだったのか、これまたよく覚えていない。とにかく僕らはあのリフを7拍子にすることを思いつき、しばらく3人で繰り返した。レコード針が飛んだようにひたすら繰り返した。当時のリハの録音を聴くとリフだけを狂ったように演奏しながらみんちゃんが「かっちょいい〜〜♪」と叫んでいるのが聴こえる。悦に入って7拍子リフを繰り返しながら、その先のことはまだ何も考えていなかったのだからイイ気なものである、3人とも。

ごく自然な流れでまきちゃんがKFAの正式メンバー、フロントウーマンとして加入。2度目、3度目とライブがおこなわれたが、「ヘイ・ブルドッグ」はやはり一歩も先に進んでいなかったため演奏されなかった。

4度目のライブが決まり、リハを繰り返す。「ヘイ・ブルドッグ」をなんとかせねば、とそれほど真剣に思い悩んでいたわけではないが、あれは「なんとかなる」のでは、との思いはメンバー共通のものとしてあった。あった筈だ。と思う。頼りないな。

この頃、僕の記憶が正しければ渋谷の焼き鳥屋で、みんちゃんと僕がサシで飲む機会があった。意外に思われるかもしれないが、彼と僕が二人で飲むのは珍しいことなのだ。いやみんちゃんに限らず、誰かメンバーとふたりでメシ喰うことすら僕は滅多にない。あ、もしかして輪の外にいるのは僕だけ?

それはともかく、その場で僕はみんちゃんに「ヘルター・スケルター」をブギ形式で演奏するアイデアを話していた。「いいねえ」とふたりで盛り上がり酒が進む。

思えばみんちゃんと初めてちゃんと話をしたのは博多のエスニック料理屋、壁にはディック・リー直筆のサインがしてある妙な店だった。確か夕方5時から飲み始め、日付けが変わるまでその店でみんちゃんはシンハービールだけを、僕は青島ビールだけをひたすら飲み続けたのだったな。7時間。あんな飲み方をしたのは初めてだったが、あの時以来、みんちゃんと飲むとお互い奇妙なトリガーが弾かれてしまうらしい。

そんなわけでその焼き鳥屋でも、例によってなにかが降りてきていいペースで飲み続けた。話はいつの間にか「ヘイ・ブルドッグ」のことへ。僕がその日の昼間、仕事中に少しだけ思いついたアイデアを基にアレンジがふくらんでいく。と言っても焼き鳥屋のこと、ギターや譜面があるわけではない。アレンジのツールとなっていたのはただひとつ。アルコールだ。

7拍子のギターリフと6拍子の歌が交錯するように進むこと、後半8分の6拍子に展開し、なべちゃんのギターソロとまきちゃんのスキャットが絡むように重なること、など、など。なにかアイデアを思いつく度に「おおーそれいいじゃん」「ああ、なるほど、いいねえ」とテンションはどんどん上がっていく。すっかり「オレタチ天才」モードに入っていて誰も止めるひとはいない。

もちろんその後はお決まりの正体不明状態、さらに細かいツメなどはなされないままとなるのだが、ようやくこの日、「ヘイ・ブルドッグ」が「見えた」のだ。KFA結成以来2年越しの念願。いや、それほど念願だったわけでもないのだけど。

それでも本当に面白かったのは、この「アルコール漬けのアレンジ」をスタジオに持ち込んだときだったな。僕とみんちゃんのヘッドアレンジを咀嚼し、自分なりに料理を始めるなべちゃんとまきちゃん。4人で、今度は本当に試行錯誤を交えながら何度も何度も繰り返す。フロントふたりとリズムふたりがそれぞれ違うリズムで進み最後にビシっと合わせる、など、さらに新しいアイデアが演奏しながら加えられ、磨かれ、形となっていく。こーれーは、実際スリリングだったよ。ジャムを重ねながら曲を完成させる、KFAとはこういうことの出来るバンドだったのだな。知らなかった。

特にまきちゃんの貢献は大きい。それまで、まきちゃんがKFAで歌ってきた曲はすべて「原曲」というお手本があった。もちろん原曲があってもそこはまきちゃんなりに工夫をしつつ歌うわけだけど、今回この「ヘイ・ブルドッグ」にお手本はない。「ここでブルースっぽいリズムに変わるから、なんか色っぽいボーカル入れて」などと、具体的な指示とは100万光年離れたことをほざくメンバーがいるだけだ。

ヤロー3人はおっさんだけあってそれまでのバンド経験で培った蓄積があるが、まきちゃんにはそれすらない。バンド歴ゼロ。そんななかでまきちゃんの頑張りは、いや、頑張りなどという雰囲気さえ感じさせない余裕あふれる(ように見える)ボーカルは実際素晴らしかった。と、あまり身内褒めをしてもナンだがまあ書いておこう。まきちゃんがブレイク・スルーするひとつのきっかけとなったのではないかな、「ヘイ・ブルドッグ」は。犬好きだし。

KFA4度目のライブで「ヘイ・ブルドッグ」は初お目見えした。その後、5度目、6度目と続けてセットリスト入りし、そのたびに演奏はこなれていく。犬ならぬ猫の目のように目まぐるしく変化する構成の「ヘイ・ブルドッグ」、KFAにとっては間違いなくマイルストーン的存在。これでKFAは次のステップに進んだ、と確実に言えるわけで思い入れもひとしお。これからも大事にしていきたいと思うわけです。

KFA版「ヘイ・ブルドッグ」が完成した頃、4人そろって六本木のビートルズ・ライブハウスに出かけたことがある。ステージではバンドがビートルズの「ヘイ・ブルドッグ」を原曲に忠実に演奏していた。とてもイカした演奏だったが、曲が終わった瞬間、4人顔を見合わせて同時に呟いた。「勝ったな」

「不遜なカバーバンド」とは某テッツさんがKFAを評して言った言葉。サンキュー!(いいのかサンキューですませて)


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