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■■ 喪失の小ネタみっつ
あなたの血を吸った墓標が見える。 あの日から丘の上に立ち、静かに朽ちゆく墓標が。
わたしはあなたを待ち続ける。 墓標の朽ちて崩れさる頃、あなたが帰還なさることを。
あなたの血を吸った墓標が見える。 あの丘の上に黙々と立ち、時の流れに身を任せている墓標が。
わたしは祈りを捧げ続ける。 墓標が伝説として語られる頃、あなたが戻ってきてくださることを。
幸福の記憶ははるか遠く、あなたの墓標は風に崩れた。 未来への希望はいまも続く、あなたの名すら伝説と化しても。 墓標なぞもはや消え失せ、土くれと草花だけが丘に残った。
吹き抜けてゆく風だけが、わたしの祈りを知っている。
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叶うのならば、月よ星よ。 私にあの人を返して欲しい。 つねに共に在ったあの人を。
暖かい地の生まれだった。 得がたい才の持ち主だった。 唯一無二の人だった。
北の果てにある戦場で、 血みどろになって剣を振るい、 奪われるべきではなかったのだ。
叶わぬ願いを聞き届けるなら、 頭上にきらめく月よ、星よ。 私のあの人を返して欲しい。
おそろしいほどの輝きで、照らし出してはくれまいか。 闇に消え失せたあの人を、今ひと時でも私の前に。
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なつかしく響く故郷のしらべ。 遠い異国で耳にする、失われたふるさとの歌。 誰もわからぬ古い言葉を、わたしはそっと口ずさむ。 私の耳にだけ残る、かなしく懐かしい二重奏。
傍らから歌声が加わり、私は静かに口を閉ざした。 同胞のない私の隣で、異人の伴侶は優しく歌う。 異国の言葉と故郷のしらべが、私をあたたかく包み込む。
そうして、私は踊りはじめる。 誰ひとりとして知る者のない、失われたふるさとの踊りを。
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「この国は病んでいる。導く者もなく、自ら治癒することもなく、腐れ落ちた骸となる――併呑されるのならば、むしろ幸運かもしれない」 「陛下」 「わかっているはず。私はじきに死ぬ」 「いいえ……!」 「この傷で、生き延びると? それはただの偽りだ。私は死ぬ――これほどの悲惨な状況を、何一つ解決し得ないままに」
「だから、私はせめて一つ、この国のために事を為してから逝きたい。わかってほしい、私の騎士」 「……っ」 「……この国を、あなたに託す。私の第一の騎士、そして私の遠い血縁」 「陛下、それは」 「あなたなら、戦を終わらせることができるはず。勝たずとも良い……この、愚かなほど長く続く戦を収めて、この国に流れる血を減らして欲しい」
「私の、最後の願いだ」
2006年07月23日(日)
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